長期間の低線量被ばくでは、細胞の修復力が期待される

ガイド:
積算量が日に日にかさんでいくので、皆さん不安が募っているのだと思います。同じ線量に被ばくした場合、少しずつ長期に渡って被ばくする時と、一気に被ばくする場合では違いがあるのでしょうか。

塚原医師:
じわじわと持続して被爆する低線量被ばくについては、現在の科学では被爆の影響を完璧にとらえられず、十分な知識が得られていません。ただ、現在のところ、少しずつ長期的に被ばくした場合の方が、一気に被ばくするよりも被害は小さいと考えられています。

それは、細胞には、放射線で傷がついても自ら修復する力「修復酵素」があり、正常な細胞に戻る能力を持っているからです。細胞は少しずつ傷つくのなら、治すこともできます。

しかし被ばくが大量であるほど、また一気に押し寄せるほど、発がんや染色体異常の発現率は高まります。放射能影響研究所では、同じ量放射線でも長期間にわたった場合は、概して一瞬で浴びた場合の半分くらいの害ですむとしています。
 

今なお続く、広島と長崎の疫学調査

ガイド:
広島と長崎の疫学調査では、当時妊娠していた方も対象になったのでしょうか。

塚原医師:
はい。原子爆弾が投下された時におなかの中にいた赤ちゃんが受けた「胎内被爆」、そして原爆被爆者の方が被爆後に妊娠した結果について、さまざまな調査がおこなわれています。

女性の子宮には通常被ばく線量全体の1割ほどの放射性物質が行くと考えられています。大きな影響をこうむってしまったのは、原爆投下時に大量の胎内被爆をした赤ちゃんで、深刻な影響は特定の妊娠週数に集中していました。

ガイド:
妊娠何週頃に、どのような影響があったのでしょうか。

塚原医師:
疫学調査の結果、生まれた赤ちゃんに重度精神遅滞やIQの低下が起きやすいことがわかりました。またこれらは、「妊娠週数」と「被ばく量」によって大きく異なりました。

妊娠10~17週の胎児の脳の発達の著しい時期に原爆に被爆し、子宮の線量が100ミリシーベルトを超えた方は生まれた赤ちゃんに重度精神遅滞やIQの低下が起きやすくなりました。ICRP(国際放射線防護委員会)が提唱する現在の計算式によれば、子宮の線量がこれだけの高さに達している時の全身の被ばく線量は、むかつき、リンパ球減少など明らかな健康被害が出る1000ミリシーベルト程度に相当します。

子宮線量が500ミリシーベルトともっと深刻な被爆になると4分の1の胎児に重度精神遅滞が発生しました。この週数に比べれば低率でしたが、18~27週の時期にも同様の傾向がありました。逆に、妊娠10週以前の早い時期や、妊娠28週を超えた遅い時期では、重度精神遅滞やIQの低下が増加しなかったことも確認されています。

ガイド:
広島、長崎では、ほかにどんな調査があったのでしょうか。

塚原医師:
広島と長崎では1948年から1954年までの間、被爆後に妊娠した7万7千人の出産について、死産の頻度や、生後二週間以内に判明する奇形など出生時の異常などを調べましたが、これでは被爆の影響は認められませんでした。

被爆二世の方の染色体異常やDNA調査、死亡率、がんの発生率については、現在も調査が続いています。これも今のところ影響が認められていません。


>> 赤ちゃんの染色体についてもう少し詳しくお聞きします。