「放射線が不安」と妊娠を控える人が出ている

妊婦さん

放射線のおなかの赤ちゃんへの影響は……?

福島原発から漏出が続いている放射性物質の影響で、妊娠中の人、そして妊娠を予定している人の間にも重苦しい不安の雲がたれこめています。子どもを持つ勇気が無くなってしまったという方もいるでしょう。

また、思春期の女の子たちの間に将来の妊娠への不安も起きているという胸の痛む話も聞きます。

不妊治療の中断も増えているようです。でも、高齢妊娠になる方は妊娠を先送りにすれば加齢も進みます。「一体いつまでお休みすればいいの?」と悩んでいる方も多いことでしょう。

胎児への放射線の影響、あるいは被ばくをした女性が後日に妊娠する時のリスクについては、まだあまり伝えられていないようです。

こうした不安について医師が相談に乗れるように、日本産科婦人科医会は、「日産婦医会研修ニュース」2011年5月号で「放射能汚染に関する基礎知識と現実的対応」という特集を組み、放射線医学の専門家らの研究結果など現時点でわかっている知識を会員に詳しく提供しました。

これをまとめたひとりである国立成育医療研究センター周産期センター産科医長・塚原優己医師にお話をうかがいました。
 

福島原発事故は、科学が初めて直面する事態

ガイド:
福島原発事故が妊婦さんに与える影響について、どのようにお考えでしょうか。

塚原優己医師(以下塚原医師):
長期にわたって調査をしていかなければ、本当のことはわかりません。科学は、正しい結論を導くには、過去の数値しか使えないものなのです。そして、今回の事故のような、長期に渡る低線量被ばくが健康に及ぼす長期的影響については、私たちはまだ十分な知識を持っていません。ですから今、世界中の研究者がこれは初めて経験する事態だと考えています。

ただ過去に起きたこととその線量を見る限りにおいては、今回の事故では、妊婦さんは、避難指定地域にとどまらない限り大きな影響はないと推察されます。

ガイド:
過去の数値とは何をさすのでしょうか。具体的に教えてください。

塚原医師:
多数の住民が大量の放射線被ばくを受けたデータは、三つの実例があるだけです。広島と長崎の原子爆弾投下、そしてチェルノブイリ原発事故です。放射線の人体への影響で科学的にわかっていることのほとんどは、これらの被災者を対象にした疫学調査から得られています。

しかし、これらの例と福島原発事故では、線量と放出された期間が違います。
過去の事例では、非常に高線量の放射線が一気に放出されました。原子爆弾では、爆心地から500メートル圏内では線量は9万5000ミリシーベルトあったと推定されています。

チェルノブイリでは、爆発直後はたった1分間で5000ミリシーベルトの放射線が放出され、周辺地域では27万人の住民が50ミリシーベルトの放射線に一気にさらされてしまいました。

これに対して、福島原発事故は、小規模な水素爆発があった3月13日午後2時の時点で発電所の敷地境界で検出された線量が1.56マイクロシーベルト、つまり0.00156ミリシーベルトと桁がいくつも違う低さでした。チェルノブイリの5000ミリシーベルトと比較してもおよそ100万分の一の線量に過ぎません。したがって、広島と長崎、チェルノブイリの疫学調査で認められたのと同様の影響が、線量の桁数が何桁も違う福島で生じるとは考えられないのです。

ただし、原子爆弾では放射線の放出は一瞬ですし、チェルノブイリも1週間程度で漏出がおさまったのに対し、福島では長期間続いているので積算量が問題となっています。


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