道端に咲く花の陰には「じっちょりん」がいるかもしれない
コンクリートの道や、壁の小さな隙間など、思いがけないところに小さな野の花がはえていて驚かされることがありませんか。実は、あの草花は「じっちょりん」が種を蒔いたものらしいのです。
「そんな馬鹿な!」というあなたも、『じっちょりんのあるくみち』を読めばわかります。人知れず花の種を蒔き続ける、妖精のような不思議な生き物「じっちょりん」を描いたほのぼの系ファンタジー作品です。
「じっちょりん」一家に密着したドキュメント?
そもそも、ガイドは「じっちょりん」という生き物のことなど聞いたことがありませんでした。それもそのはず、じっちょりんは隠れるのが得意で、猫が苦手な、妖精のような生き物なので、なかなかお目にかかることができないのです。
じっちょりんは、草花の花びらや葉っぱ、花粉や蜜などを食べて生きていますが、種だけは食べません。なぜかって? ドングリの帽子で作った種かばんに種を貯めておき、種がいっぱいになるのを待ってその種を蒔くからです。ある日、帽子が種でいっぱいになったので、一家は、パパじっちょりんを先頭に町へと出かけます。
大切な種蒔きの日のじっちょりん一家を、まるでテレビのドキュメント番組のように追いかけながら、お話は進みます。一家は、猫や犬に遭遇したり、女の子に見つかりそうになったりといった危機を乗り越えながら、町なかの小さな隙間に花の種を蒔いて回ります。
じっちょりんの世界は小さいけれど、驚くほどたくさんの魅力にあふれています。かたばみやからすのえんどうなどといった野草が、色とりどりの美しい花を咲かせています。また、へびいちごの赤い実のなんと可愛らしいことでしょう!
この花もじっちょりんが種を蒔いたのでしょうか?
けれど、じっちょりんの世界の魅力は、草花の美しさだけではありません。そこでは、普段私たちが気にもとめない小さな植物たちが、命の営みを精一杯続けています。また、人間に見つからないように、町に花を届けるじっちょりん自身の姿も一所懸命で健気です。じっちょりんの世界は、「見えないものや取るに足らないと思われているものの中にも、実は大切なことや美しいものが隠れていることがある」と教えてくれる場所なのです。
作品の中でじっちょりんの世界を楽しんだら、絵本を持って散歩に出掛けてみませんか? 絵本には、町で見かける草花の名前が、丁寧に紹介されていますから、図鑑代わりにも使えます。道端に咲く小さな雑草も、じっちょりんが種を蒔いたのかと思うと、なんだか愛しく思えるから不思議です。ひょっとすると絵本を通じて、じっちょりんが、私たちの心にも「草花を愛でる優しさの種」を蒔いてくれたのかもしれません。それに、絵本片手のお散歩なら、運がよければ、じっちょりんに会えるかも……その時には、私たちも猫に充分注意しなくちゃね!
【書籍DATA】
かとうあじゅ:作/絵
価格:1365円
発売日:2011年5月
出版社:文溪堂
推奨年齢:4歳くらいから
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