世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

ルクセンブルク市:古い街並みと要塞が連なる世界遺産(2ページ目)

城壁と渓谷に囲まれた城郭都市ルクセンブルク。森と川と城と街が調和した旧市街は数多の国の侵略を受けるが、その代償として欧州各地の文化を吸収し、強く美しい街並みを花開かせた。今回はルクセンブルクの世界遺産「ルクセンブルク市: その古い街並みと要塞群」の歴史・文化と、 ベストシーズンなど観光情報を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

美しき渓谷の街グルント

グルント地区とアルゼット川

渓谷の底に広がるグルント地区とアルゼット川。右側に広がるのが旧市街で、中央上部にラームの高台と聖霊砦が見える

特に美しいのがヴェンツェルの環状城壁の下に広がるグルント地区の街並みだ。

環状城壁の一部をなすボックの砲台やラームの高台から眺めると、渓谷の底部を優雅な曲線を描いて流れるアルゼット川の周囲に木々や田畑・緑園の緑が輝き、銀屋根にパステルカラーの壁に彩られた家々が花のように立ち並んでいる姿を見ることができる。
グルント地区の美しい水路

グルント地区の美しい水路

グルント地区に下りると、城郭都市の中にいるという感覚はなくなり、どこかの田園にでも来たような錯覚を覚える。 

おばあさんがパンを抱え、小さな子供の手を引いて小路を歩いている。おじいさんは煙草を片手に木にもたれかかって川をボケーと眺めている。川のほとりにあるサン・ジャン教会から聞こえてくるミサの音はまっ青な空へ消えていく。

ルクセンブルクを囲むヴェンツェルの環状城壁

アルゼット川とボックの砲台

アルゼット川とボックの砲台。断崖は掘り削られて地下要塞として整備された。開いた穴々にはかつて大砲が設置されていた

そんな素朴な街なのに、見上げると取り囲んでいるのは環状城壁だ。断崖に築かれたボックの砲台には何層にもなる地下要塞が築かれていて、レプリカの大砲が新市街を狙っている。岩の形を延長して築き上げられた聖霊砦は見るからに堅牢な姿で威風堂々、グルント地区を見下ろしている。

だからといって、別に圧迫されるような空気があるわけじゃない。19世紀に永世中立を保障されたルクセンブルクは多くの城壁や砦を撤去した。現在ルクセンブルクの城壁からは物々しさの多くは取り去られ、古い遺跡を思わせるようで味がある。
大公宮殿

スペイン・ルネサンスの影響を受けて15世紀に建てられた大公宮殿。16世紀に火事で再建された。現在迎賓館として使われている

このグルント地区、いまはこんなにのんびりしているが、戦時中は水門によってアルゼット川を堰き止めて、一帯を水没させて水堀として活用できるように計画されていたらしい。

ルクセンブルクは英国海軍の拠点ジブラルタル並みに難攻不落であったことから「北のジブラルタル」の異名を持つように、戦争の街であったのもまた事実なのだ。

 
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