小説に登場する建物についての文章
仕事柄、小説を読んでいても建物についての記述に目がいきます。この前、気になったのは古い建物についての文章です。この建物が古いために独特の雰囲気があることが強調されており、「ゆうに築30年は超えている」、「ガラスの表面には手づくりらしいうねりが見られる」と書かれていました。主人公が住んでいて、物語のほとんどはここで展開されるので、小説の上ではとても重要な建物なのですが、この建物についての記述がどうしても気になってしかたがありませんでした。
築30年を超えていると古い建物なの?
最初に私が気になったのは、建物の築年数です。築30年の建物はそんなに古いでしょうか。確かに新しいとは言えませんし、「ゆうに30年を超える」とあるので、築35年あるいは築40年くらいなのかもしれません。けれども、そもそも30年や35年の住宅ローンを組む人はたくさんいますし、住宅ならまだまだ暮らせるはずですね。住宅街を歩けば築30年を超える家を見つけるのはそんなに難しいことではないでしょう。
手漉きガラスとフロートガラス
もうひとつは、ガラスについての表現です。「ガラスの表面には手づくりらしいうねりが見られる」と書いてあるので、フロートガラスではなく、手漉きのガラスだと解釈できます。しかし、フロートガラスの製造方法が開発されたのは、1950年代。普及までの時間を見積もっても、1960年代の建築物であれば、現在のガラスと同じ、表面が滑らかなフロートガラスが使われているはずです。
となると、築年数はどんなに少なくとも40年を超えていることになります。
文章から推測すると築50年以上?
手漉きのガラスは表面が波打っているのが特長です。写真は旧安田家のガラス
もし、私がこの小説の作者なら「うねりのあるガラスから考えると、少なくとも築50年以上経っているだろうか」と書いていたかもしれない・・。ときには、こんなふうに登場する建物に注目して、あれこれ想像を巡らせて小説を読んでみるのも楽しいのではないでしょうか。