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「それでも生肉が食べたい!」…知っておくべき自衛策(2ページ目)

肉の生食は危険で、食中毒リスクをゼロにすることはできません。しかしそれでもユッケを始めとする生肉や、柔らかいレアの焼肉を諦められない人はいるでしょう。危険が指摘されている生肉を少しでも安全に楽しむために、殺菌効果のある薬味、調味料、酒、乳酸菌などを活用したできる限りの自衛策をご紹介します。

西園寺 克

執筆者:西園寺 克

医師 / 感染症・健康情報ガイド

どんな工夫を加えてもハイリスク……肝臓の生食

焼肉

お薦めできない肝臓の生食。一方で、焼肉店に着いてからでもできる発症予防法も……

前ページでは、リスクを少しでも抑えるための方法を書きましたが、どう工夫しても医師としては薦められない部位もあります。レバ刺しなどでおなじみの肝臓の生食です。肝臓と食中毒は何となく関係がなさそうに思われますが、実は大ありです。

哺乳類の消化器系の血液の流れは基本的に同じで、小腸で消化吸収された栄養素の流れは、脂肪とそれ以外の2つに分けられます。脂肪は小腸で粒子が作られ、リンパ管を経由して静脈に入ります。一方で脂肪以外の栄養素は門脈系を経由し、肝臓に向かいます。そのため、顕微鏡を使って観察すると、動物の肝臓の門脈系には細菌を発見することができます。細菌が肝臓に集まりやすい例として、食中毒を起こすビブリオ菌の一種が、肝臓病、肝硬変の人に強い病原性を示し、命を奪うこともあることも挙げられます。

カンピロバクターなどの食中毒菌を含め、細菌の集まりやすい臓器といえるので、肉の処理方法や味付け等を問わず、肝臓の生食は避けた方が賢明でしょう。

店でも注文可能! 発症予防が期待できる乳酸菌

同じ物を食べても、食中毒を起こす人と何ともない人がいるのは事実です。食物中の毒素による食中毒は摂取量が関係しますが、食品に付着した微生物の増殖後に発症する食中毒の場合は、個人が取り込んだ菌やウイルス自体の量の差よりも、「非特異的免疫機構」と「免疫記憶」が、発症するかどうかの分かれ目となります。

O-157やO-26やO-111などの腸管出血性大腸菌による消化管感染では、腸内環境(腸の常在菌そう)が非特異的免疫機構として重要な役割を果たします。動物実験のうち、食中毒を起こす微生物を投与する動物実験では、乳酸菌などの善玉の微生物や抗生物質を、病原性のある悪玉の微生物投与前に投与した場合と、同時に投与した場合と、後から投与した場合で、結果が異なります。乳酸菌を摂取させた後にO-157に感染された場合、乳酸菌を摂取していなかった群より、死亡率が低下することがわかっています。

そのため生肉を食べる前に乳酸菌を摂取すると、仮に菌が付着してもいくらかの予防効果が期待できる可能性があります。強力な菌にも通用する方法とは言えないものの、ヨーグルトや乳酸菌飲料がコンビニなどでも極めてすぐに買え、すぐに食べることができるので、手軽さの点でもお薦めです。

また、焼肉店に到着してからでも乳酸菌を摂取することはできます。キムチやカクテキなどは発酵食品なので、これらを先に食べることで生きた乳酸菌を摂取することができるのです。韓国系の焼肉店の場合は、生きた乳酸菌を摂れる飲み物がある可能性があります。非加熱の生マッコリです。日本で流通している多くのマッコリは加熱されたものですが、本格的なお店なら、乳酸菌が生きている非加熱の生マッコリがあるかもしれません。加熱したマッコリよりも乳酸発酵が進んでいるため多少酸味が強いかもしれませんが、これらを一緒に注文するのも一つの自衛策といえるでしょう。


提供する店の衛生管理や制度もより徹底されるべきでしょうが、最終的に自分の身体を守れるのは自分自身です。生食の危険性を認識し、注文時はできる範囲で工夫する、体力が落ちていると感じるときには感染リスクのありそうな食品を避けるなど、食べる側もできる限りの注意を心がけるようにしましょう。
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