土地活用のノウハウ/土地活用の相続・法律問題

立ち退き交渉の成功事例・失敗事例(2ページ目)

賃貸アパート・マンションの建替え、売却などを検討する際に避けて通れない問題が、現在お住みになっている入居者さんの立ち退き問題です。家主さんの事情を汲んで、協力していただける方もいらっしゃいますが、ご自分の事情から立ち退きを拒まれる方もいらっしゃいます。立ち退き交渉で失敗した事例、成功した事例を取り上げました。その差がどこにあるかお考えいただき、今後の賃貸住宅経営にお役立て下さい。

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

英断によって解決した成功事例

事業経営という視点からは、時には「理不尽な要求だ」と感じても、あえて受け入れる英断も必要になってきます。

次世代への課題

次世代に禍根は残したくない

あるオーナーさんは、築35年の木造アパートを所有していました。バランス釜にタイル貼りのお風呂がある長屋風の建物で、老朽化が激しく、あちらを直せばこちらが壊れるという状態でした。ここ数年間は入居者との立ち退き交渉が面倒なので、入居者が引っ越ししていなくなると原状回復もせずにそのまま空室としていました。当然、建物は荒れ放題になっていきます。

そういう物件でも我慢して住んでいる入居者というのは、どうしてもマナーが悪くなり、滞納も頻発するようになりました。オーナーさんから見れば、悩みの種が尽きない不良資産です。

私がオーナーさんと知り合った時点では、6戸のうち3戸が空室で、残った3戸からは月に4万円ずつの家賃収入しかありませんでした。合計で12万円です。

オーナーさんはそんな状態のまま、特に何か行動を起こすでもなく、およそ10年にわたって収益の上がらない、荒れ果てたその物件を放置していたのです。そんな状態ですから、オーナーさんの奥さんもお子さんも、賃貸経営に全く興味を示しません。それどころかオーナーさんご本人でさえ、そのアパートの近くを通るたびに、憂うつな気分になっていたそうです。

しかしこのアパートは、敷地の広さや地形、立地は悪くなく、取り壊して建て直した場合の事業計画を作ると、ローンを返済しランニングコストを差し引いたとしても、手元に残るお金が毎月40万円、年間で480万円の収入となることがわかったのです。そこでオーナーも、とうとう残り3戸の立ち退き交渉に踏み込むことにしました。

3軒のうち2軒までは、引越し代プラスアルファ程度で立ち退きに同意してくれました。ところが最後の1軒は、寝たきりのおばあさんとその息子という家族だったのですが、どうしても立ち退きに同意せず、立ち退き料として500万円という高額の要求を出してきたのです。月の家賃が4万ですから年間で48万円。500万円というのはその10年分以上です。

オーナーはすぐには納得できませんでした。「それではまるで10年間タダで住まわせてやったのと同じじゃないか」と思ったのでしょう。けれども建て替えて事業を再出発させれば、480万円なら1年ちょっとで回収できるのです。立ち退き料については取得原価に含め、経費として計上することも認められています。

裁判で解決するという手段もありました。ただしその場合は、判決が下りるまで建て替えを始められません。1年以上の損失は必至です。場合によっては10年がかりになり、お子さんの代まで裁判が続く可能性もあるのです。

悩んだ末、オーナーさんは「この建物の問題を、次の世代に残すようなことはしたくない」と考え、500万円の立ち退き料を支払うことを決断しました。その後、このオーナーさんは老朽化したアパートを取り壊して新しい賃貸マンションを建設、次の世代に残すのにふさわしい賃貸事業を始めました。

新しい建物なので、それまで悩まされていた修繕費用や空室の問題も解決しました。収益も安定し、しかも何倍にも増え、お子さんの関心も高まっています。今ではオーナーさんは、まるで憑きものが落ちたような明るい顔で、「建て替えてよかった」と晴れ晴れと語っています。

スムーズに立ち退いてもらえた成功事例

老朽物件放置

老朽物件を放置しておくと……

私は立ち退き交渉について安易に考えているオーナーさんに対しては、「立ち退き交渉は甘くありませんよ」と警鐘を鳴らしますが、反対に交渉に不安を持ち、怖がっているオーナーさんに対しては「そんなに難しいものじゃありませんよ」とお伝えすることにしています。次のような成功例もあることをぜひ知ってほしいと思います。

あるオーナーさんは建替えを検討するにあたって、まずコンサルタントと相談し、入居者に対して私信(個人的な手紙)を送ることにしました。入居者に対し、これまで入居していただいてきた感謝の気持ちを伝え、そして建物の老朽化が進んだためにこれ以上維持することが困難であることを訴えたのです。この文章はコンサルタントのアドバイスを受けて作成したものです。

更に立ち退き交渉にあたっても、移転先候補の間取りの図面を持参して説明するなど、入居者と一緒になって親身に引越し先を探しました。

最終的にはすべての入居者が、それぞれ自分で引越し先を捜し、立ち退き料も全戸が約30万~50万円という、引越し費用プラスアルファの範囲で収まったのです。このようにスムーズに立ち退いてもらえるケースも稀にあります。

注意していただきたい点は、立退きは「権利調整」の交渉業務になりますので、この交渉業務で報酬を受け取って良いのは弁護士だけであると、法で定められていることです。たとえ成功報酬であっても弁護士以外の誰かにお金を払って交渉を依頼するのであれば、弁護士法違反に該当します。オーナーさんまで事情聴取されたケースもありますので要注意です。
もし、専門的なご相談を希望される場合は、こちらをご覧ください。

相談機関として、下記の公的相談窓口をご案内します。

社団法人東京共同住宅協会                 03-3400-8620
社団法人全国賃貸住宅経営協会 首都中央支部    03-5468-8622
特定非営利活動法人(NPO法人)賃貸経営110番     03-5468-8788
社団法人全国賃貸住宅経営協会 主な地域の支部
本 部 03-3510-0088     北海道 011-633-8505
埼 玉 048-652-8585     千 葉 043-235-5055
愛 知 052-324-8488     大 阪 06-6764-0131
福 岡 092-761-3800     北九州 093-952-2000
熊 本 096-322-5581     沖 縄 098-937-5035

弁護士会相談窓口

日本弁護士連合会のホームページで、「全国の弁護士会」をご覧下さい。
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