民芸品? おもちゃ? 知られざるメキシコの人形、ルピータ
グアナファト州で作られている伝統的なルピータ(C)Miss Lupita proyecto
1910年のメキシコ革命の頃、ヨーロッパから伝わった素焼きの人形を、子供でも手軽に扱えるようにメキシコ独自のカルトネリア(張り子)の技法で作るようになり、絵の具で顔や洋服を着色した西洋風の人形です。バービーのようなビニール素材の人形が存在していなかった時代に、メキシコの子供たちから愛されていました。
その発祥は、かつて貿易の中心地だったメキシコ中央高原部のグアナファト州のセラヤですが、現在では数えるほどしか職人が残っていず、後継者も減り、ルピータ制作の伝統も消滅の危機にあります。ルピータはカトリックの復活祭を祝うための聖週間であるセマナサンタ(年によって変動。だいたい3月中旬から4月上旬くらい)周辺の時期に、メキシコシティのメルセー市場周辺の露店で売られる姿を見かけるくらいで、残念ながら民芸品市場でも普段はあまり売られていません。
メキシコにはカルトネリアの技法を使った民芸品が何種類かあり、アレブリヘスという空想上の動物を創作したものや、ガイコツや悪魔を等身大に象ったものが有名ですが、民芸品とおもちゃの境界線に位置するようなルピータは、時代とともに、忘れられつつあったのでした。
ポピュラー文化復興、『ミス・ルピータ・プロジェクト』の始まり
メキシコシティのルピータ制作ワークショップで指導するカロリナさん(中央)
ワークショップには様々な世代の人々が参加。男性の姿も多い
美術大学在籍時から最新鋭のマルチメディア・アートに従事してきたカロリナさんですが、なぜ、今までの経歴と対極にある、アナログな手法を使ったルピータ制作に行き着いたのか、話をききました。
「昔から、忘れられつつあるメキシコの民芸、大衆文化の象徴のようなルピータのことがとても気になっていました。美術大学でマルチメディアの勉強を本格的に始める前のことだったんですが、個人的な興味からカルトネリアのワークショップに参加して、人形制作の技術を習得しました。でも大学に入ってからは、カルトネリアから離れてしまい、その存在も忘れかけていました」
カロリナさんは、コンテストで賞を受賞したり、メキシコ文化庁の奨学金を得たりしてマルチメディア・アートに没頭していきましたが、メキシコで、アーティストとして食べていくのは大変です。
「そこで生活資金を得るために始めたのが、ルピータ制作のワークショップだったのですが、活動をしていくうちに、ルピータが非常に可能性のあるものだと気がついたんです。昔から使われている型によって人形を成型するけれど、自由な色や装飾で、作り手の創造性を反映できる。私が今まで学んできたカルトネリアの伝統技術と、マルチメディア・アートによって培われた新しい視点の両方を活かせると思いました」