不動産売買の法律・制度/宅地建物取引業法詳説

宅地建物取引業法詳説 〔売買編〕 -26-

宅地建物取引業法のなかから「一般消費者も知っておいたほうがよいこと」などをピックアップして、順に詳しく解説するシリーズ。第26回は「割賦販売の契約の解除の制限」および「所有権留保等の禁止」について。

執筆者:平野 雅之


宅地建物取引業法詳説〔売買編〕の第26回は、第42条(宅地又は建物の割賦販売の契約の解除等の制限)および第43条(所有権留保等の禁止)についてみていくことにしましょう。

 (宅地又は建物の割賦販売の契約の解除等の制限)
第42条  宅地建物取引業者は、みずから売主となる宅地又は建物の割賦販売の契約について賦払金の支払の義務が履行されない場合においては、三十日以上の相当の期間を定めてその支払を書面で催告し、その期間内にその義務が履行されないときでなければ、賦払金の支払の遅滞を理由として、契約を解除し、又は支払時期の到来していない賦払金の支払を請求することができない。
 前項の規定に反する特約は、無効とする。
 
 (所有権留保等の禁止)
第43条  宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なつた場合には、当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡すまで(当該宅地又は建物を引き渡すまでに代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けていない場合にあつては、代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けるまで)に、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならない。ただし、買主が、当該宅地又は建物につき所有権の登記をした後の代金債務について、これを担保するための抵当権若しくは不動産売買の先取特権の登記を申請し、又はこれを保証する保証人を立てる見込みがないときは、この限りでない。
 宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なつた場合において、当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡し、かつ、代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けた後は、担保の目的で当該宅地又は建物を譲り受けてはならない。
 宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の売買を行なつた場合において、代金の全部又は一部に充てるための買主の金銭の借入れで、当該宅地又は建物の引渡し後一年以上の期間にわたり、かつ、二回以上に分割して返還することを条件とするものに係る債務を保証したときは、当該宅地又は建物を買主に引き渡すまで(当該宅地又は建物を引き渡すまでに受領した代金の額から当該保証に係る債務で当該宅地又は建物を引き渡すまでに弁済されていないものの額を控除した額が代金の額の十分の三をこえていない場合にあつては、受領した代金の額から当該保証に係る債務で弁済されていないものの額を控除した額が代金の額の十分の三をこえるまで)に、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならない。ただし、宅地建物取引業者が当該保証債務を履行した場合に取得する求償権及び当該宅地又は建物につき買主が所有権の登記をした後の代金債権について、買主が、これを担保するための抵当権若しくは不動産売買の先取特権の登記を申請し、又はこれを保証する保証人を立てる見込みがないときは、この限りでない。
 宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の売買を行なつた場合において、当該宅地又は建物の代金の全部又は一部に充てるための買主の金銭の借入れで、当該宅地又は建物の引渡し後一年以上の期間にわたり、かつ、二回以上に分割して返還することを条件とするものに係る債務を保証したときは、当該売買に係る宅地又は建物を買主に引き渡し、かつ、受領した代金の額から当該保証に係る債務で弁済されていないものの額を控除した額が代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けた後は、担保の目的で当該宅地又は建物を譲り受けてはならない。

割賦販売における契約解除は民法より厳しく…

「割賦販売」とは平たくいえば売主に対する「分割払い」のことです。金融機関による住宅ローンの融資が一般的でなかった時代には、不動産の売買でも「割賦販売」が比較的多くみられたようですが、現代ではこれに該当するケースはほとんどないでしょう。それでも地方における公社などの分譲や、売主業者との特別な関係などによって「割賦販売」が行なわれる場合もあるようですから、念のために説明をしておくことにしましょう。

一般の商品における割賦販売では支払いが1回でも(1日でも)滞れば、簡単な手続きによって売主が契約を解除したり、残金全額の一括支払い請求をしたりすることが民法によって認められています。しかし、一般にかなり高額であり、支払いが十数年にわたることも多い不動産にこの規定をそのまま当てはめるわけにはいきません。

そこで宅建業法の第42条では、30日以上の相当の期間を定めてその支払いを書面で催告することを義務付け、これに反する特約を無効としています。ただし、これは宅地建物取引業者が売主となる宅地または建物の割賦販売契約に限られ、個人が売主の場合には適用されません。もっとも、個人が売主となる割賦販売はほとんど考えられないでしょうが…。ちなみに、この規定は宅地建物取引業者同士の取引にも適用されません。

所有権留保の禁止とは?

不動産の割賦販売では、土地や建物を買主へ引き渡した後も多額の未払い代金が残ることになります。売主である宅地建物取引業者は、その残代金にかかる債権をしっかりと確保しなければなりません。そこで、もし何ら制限がなければ「売った家に買主を住まわせながら、その所有権は業者の名義のまま」にすることが手っ取り早い担保方法です。これが「所有権留保」といわれるものです。

しかし、この「所有権留保」を簡単に認めてしまえば、売主業者が第三者へ二重売買をするおそれがあるほか、業者の倒産などにより買主が不測の損害を被ることにもなりかねません。

そこで宅建業法の第43条では、宅地建物取引業者が売主となる宅地または建物の割賦販売契約において所有権留保などを禁止して消費者の保護を図っています。さらに割賦販売の場合だけでなく、提携ローンなどにおいて「金融機関に対する買主の返済債務を宅地建物取引業者が保証した場合」でも、同様に所有権留保などを禁止しています。

割賦販売に該当する事例は少ないでしょうが、「住宅ローンに対する宅地建物取引業者の保証」は比較的多いかもしれません。ただし、この保証に該当するのは「引渡し後1年以上の期間にわたり、かつ、2回以上に分割して返還する債務」に限られます。地方の比較的低額の物件で、1年以内に返済が終わるようなケースは対象外です。

また、第43条では所有権留保だけでなく「譲渡担保」も禁止しています。「譲渡担保」とは担保目的で所有権を譲り受けることで、この場合にはいったん買主へ所有権を移転したうえで、形式上の登記名義を売主へ戻すような行為が該当します。業者による住宅ローンの保証の場合も同様に譲渡担保が禁止されます。

ただし、「所有権留保の禁止」および「譲渡担保の禁止」は、買主の支払った代金が3割以内のときには適用されません。したがって、手付金を含めた支払い額が売買代金の3割を超えるまでは所有権を留保し、売主業者の名義のままとすることも認められます。

また、買主が抵当権や先取特権の設定登記に正当な理由なく応じないとき、あるいは買主が保証人を立てる見込みがないときなど、売主業者の催告にも関わらず買主が何ら担保措置を講じなければ、「所有権留保の禁止」が適用されないことになります。


なお余談ながら、某大手WEBサイトの不動産用語集では「割賦販売」の定義について、
不動産の場合は「代金の全部または一部について物件引き渡し後1年以上の長期にわたり、2回以上に分割して受領することを条件に販売すること」と宅建業法で規定されている。
とありましたが、そんな規定はありませんのでご注意ください。住宅ローンの保証に関する適用対象を指定した部分が混同されているようです。

関連記事

宅地建物取引業法詳説 〔売買編〕 INDEX

不動産売買お役立ち記事 INDEX

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます