派遣制度ならではの問題は何か?
前ページでは、有期雇用全般についてまとめてきました。一方で、派遣制度特有の課題もあります。■派遣制度特有の問題
スタッフ、派遣会社、派遣先という3者関係は派遣制度ならでは。
「意外と知らない「派遣会社」の選び方」で書いたように、派遣制度には、派遣スタッフ・派遣会社・派遣先の3者間契約という特徴があります。この3者間契約という構造から起こる問題は、まさに派遣制度ならでは。代表的なものを以下にまとめます。
(1) 派遣契約と雇用契約の違い
【問題】派遣先の派遣契約と派遣会社の雇用契約は別の契約ですが、派遣契約が終了すると同時に、雇用契約も終了になってしまうことがあります。とくにかつては、派遣契約が終了になれば、雇用契約が中途解除になってもやむをえないという判例や業界慣習があったからなおさらでした。
【現在】リーマンショック後、こうして雇用契約を打ち切られた派遣スタッフが続出したため、現在では厚生労働省から通達が出て、派遣契約がなくなったからといって、雇用契約を打ち切っていいということはありません。もし、派遣会社から雇用契約の中途解除をもちかけられた場合は、労働基準法が定める「労働条件の不利益変更」に該当します。安易に同意せず、派遣会社に合理的な理由があるのか確認しましょう。判断がつかなければ、しかるべき機関に相談することをオススメします。
(2) 処遇向上の仕組み
【問題】働く人の労働条件をあげる役割は、一般には組合が担っています。ところが、派遣スタッフの場合、この機能が組合と派遣会社にわかれてしまう。取引上の力関係から、派遣会社は派遣先に要望を出せないことがあるうえに、現在の法律では、組合が派遣先に団体交渉を申し入れても派遣先に応じる義務がないといった制約があります。
【現在】2010年、派遣の業界団体である日本人材派遣協会や日本生産技能労務協会と、組合の上部団体である連合が協議をし、派遣先企業の組合が、外部人材である派遣スタッフの処遇向上の働きかけも一体的に行うことを表明しました。
(3) 派遣会社の質
【問題】日本は派遣会社の数が多く、派遣会社の質に大きなばらつきがあります。利益率をおさえ、社会性を重視する会社がある一方、暴利をむさぼる会社も。悪質な派遣会社を淘汰し、優良な派遣会社だけにしていくかが大きな課題です。「安かろう、悪かろう」の派遣会社があると、コスト競争の中で、派遣スタッフの処遇も悪化してしまうからよけいにです。
【現在】派遣会社の参入基準の見直しの検討が厚生労働省で始まっています。製造業派遣の領域では優良事業社認定制度がスタート。この認定制度の軌道に乗れば、派遣スタッフも「いい」派遣会社を選ぶことが今より簡単になりますし、優良派遣会社間の適正な競争が促進されます。事務系派遣の領域でも、同様の検討が行われていたものの、2009年の事業仕分けによって中止に。とても残念なことです。
今回は、派遣制度の問題についてまとめました。構造的な課題がいくつもあるものの、課題解決に向けて、対策が講じられ始めていることを知っていただけたらと思います。
なお、もう1つの重要な論点である、派遣で働く人の十人十色の多様性に着目したコラムは、あらためてUPします。そちらもあわせてお読みいただければ幸いです。