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何故ニノ国は値崩れしそうなのか(2ページ目)

レベルファイブとスタジオジブリがタッグを組んだ話題の新作タイトル、ニノ国が2010年12月9日に発売されました。発売初週で約17万本を売り上げ、好調なスタートをきったニノ国ですが、実は店頭では販売価格が下がる気配がありそうです。さて、いったい何が起きているのでしょうか?

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

ゲーム業界ニュースガイド

マジックマスターの罠

マジックマスターの図

クリスマスにもらった子供が、ドキドキするぐらい立派な魔法指南書がついています。

新作タイトルであり、また、ゆっくりとした売り方で販売を伸ばしていけるライトユーザー向けでありながら、何故初回から60万本も出荷してしまったのか。一筋縄ではいかない理由がたくさんあるとは思いますが、そのうちの1つに、ゲームの付属品であるマジックマスターという本が挙げられます。

ニノ国はゲーム内にも登場する魔法指南書のマジックマスターという本の実物が全ての商品に同梱されています。これが、ハードカバーで352ページもあり大変に立派な作りになっています。ゲームは、この本がなければ攻略できないようになっているんですね。魔法の本を自分で調べながら遊ぶゲームなんて、聞いただけでも子供がワクワクするイメージが浮かびます。

しかし、ここで問題があります。このハードカバーの本を作るにはお金がかかるだろうな、ということです。しかもそれはゲームの開発費に丸々上乗せされるコストであり、いっぺんに作ればかなり安くなり、細かく分けて小ロットで生産すればするほどどんどん高くなるという類の話です。

本の在庫リスクを誰が抱えるのか

安売りの図

このまま在庫が消化できなければ、年明けの初売りセールあたりではかなり値段が下がっているかも?

通常こういうものは予約特典などとされて、お店の初回発注数に対して30%程の割合でつける、なんていうのがゲーム業界では多いパターンです。そうすれば再発注分に関しては考えなくていいので、リスクはそれほどありません。

しかし、ニノ国はこの本がなければ攻略できないんですから、そうはいきません。長いスパンでどれくらい売れるのかを考えて60万冊なら60万冊、一気にドーンと作るのが低コストで生産する方法です。

しかしその60万冊の在庫リスクを誰が抱えるのか。レベルファイブが自社で抱えて、市場を見ながら売っていく方法が1つあります。もちろん、リスクが高い方法です。次に、20万なら20万で生産し、売り切れ御免で終わらせる方法があります。これは、手に入らなかったユーザーは大変に悲しい思いをしますし、ビジネス的に爆発する可能性を潰すかもしれませんが、メーカーも、流通もリスクがありません。最後に、営業努力によってとにかく流通に60万本のゲームを売り切ってしまう、という手があります。ゲームでは、売れ残ってもお店や問屋からメーカーには返品できませんから、それはまるまる流通のリスクということになります。

今回、初回にどのくらい生産して、レベルファイブがどのくらい在庫を抱えているかは分かりませんが、少なくとも60万本以上は生産し、そして営業さんが頑張って60万本を出荷したんですね。新作をいきなり60万本出荷って、実はとんでもないことですよ。結果、流通に商品がだぶついて、値崩れしそうな状況となっているわけです。

ゲームとして、遊びとしてどうなのかはさておき、商品としてはこのマジックマスターという本はメーカーにとっても流通にとっても極めて厄介な存在です。なんでわざわざそのようなものをつけたのか、そこにもう1つゲーム業界の事情が浮かび上がります。
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