名のり・人名訓とは……名前だけに使われる漢字の読み方
「夏美」ちゃんの美の読み方は「名のり」
私たちは学校では、漢字の読み方に音と訓がある、と教えられましたが、実は漢字にはそれとは別に「名のり」、つまり人の名前に限って慣習的に使われてきた読み方があります。それを加えると漢字には音、訓、名のりの3つの読み方があるわけです。
たとえば「夏美」という名前は誰もが「ナツミ」と読みますが、このように美をミと読むのは、音でも訓でもなく、名のりです。美は音で「ビ」、訓で「うつくしい」、そして名のりで「うま、きよし、とみ、はし、はる、ふみ、み、みつ、よし、よしみ」という範囲の読み方があります。女性の名前に「美」の字が入ったら、ほとんど名のりの中の「み」の読み方になるわけです。同じように女性の名前に「乃」の字が入れば、必ずと言っていいほど名のりの中の「の」の音で読みます。
名のり読みの範囲はさまざま
漢字には名のりがまったく無い字もあれば、何十もの名のりを持つ字もあります。また音や訓と同じ読み方が名のりに入ることもあります。たとえば「広」の字は訓では「ひろい」と読みますが、名のりでも「ひろ」という読み方があります。
少し大きめの漢和辞典では、音、訓のほか名のりものせているものが多いですから、名づけの時はそれを見れば正しい読み方の名前を作れます。ただし名のりの中でも普通の人が知らないような読み方は、うかつに使うと読めない名前になってしまいます。たとえば「和」の字の名のりの中に「とし」という読み方もありますが、だからといって佐和という名前をサトシと読ませたら、読み方は間違いではなくても、誰にも読めず、サワという女性の名に見えて大きな名前の欠陥になってしまいます。
名のりに関して、法律はどうなっているのか
名前をどう読ませるかは常識で考えることであり、わざわざ法律で「正しい読み方にしなさい」などと定めてはいません。したがって出生届の名前のふりがなについては役所に審査義務はなく、それぞれの役所にまかされている状態で、審査する役所としない役所があります。役所によって違うのもおかしな話ではありますが、現実はそうなのです。ただし審査をする役所でも、音、訓、名のりの3通りの読み方のどれかでかながふられていれば正しい読み方とみなし、出生届はかならず受理されます。その他のふりがなを書けば間違いですから、役所によっては出生届の書き直しを指示することもあります。
一般に読み方を審査する役所はうるさく思われ、何も言わない役所のほうが評判はいいのですが、間違った読み方の名前で苦労するのは役所ではなく本人であり、その周囲の人たちです。読み方の間違いを指摘してくれる役所のほうが本当は親切なのだ、と思わなければいけないでしょう。