「眠れていない」のは思い込み? 逆説性不眠症の症状
夜に眠れないと訴えますが、日中の仮眠はあまりとりません
患者さんがウソを言っているのかといえば、そうではなさそうです。精神生理性不眠症の患者さんのように、神経質そうにも見えません。このように、強い不眠を訴えるのに検査では睡眠障害の証拠が見られないものを、「逆説性不眠症(睡眠状態誤認)」といいます。本人の訴えと検査の結果が「逆」、ということです。
逆説性不眠症の有病率は明らかではありませんが、不眠を訴えて睡眠障害センターを受診する患者さんの5~7%と考えられ、それほど多い人数ではありません。男女の比率も不明ですが、20歳代~40歳代の女性に多いと推測されています。
患者さんは不眠の程度を表現するのに、大げさな言葉を使いがちです。たとえば、「まったく眠れない」とか「一晩中起きていた」などとよく訴えます。ところが、終夜睡眠ポリグラフ検査を行うと、入眠潜時(寝床についてから寝つくまでの時間)や総睡眠時間、睡眠効率(寝床にいた時間に対する実際に眠っていた時間の割合)などの客観的指標は、不眠のない健常人と変わりありません。
本人が申告する入眠潜時や中途覚醒時間(夜中に目覚めていた時間)は、実際に測定された時間の1.5倍以上にもなり、総睡眠時間は過小に評価されます。ただし、深い睡眠が減って、脳波でCAP(Cyclic alternating pattern)という特徴的なパターンが多いことは事実です。ですから、検査ではまったく異常がないとも言い切れないようです。
逆説性不眠症の原因は不明
逆説性不眠症から、ほかの不眠症になることもあります
まずは精神的なもので、うつ病の気質が背景にあるのではないとか、強迫的あるいは神経症的に意識過剰になって、睡眠の状態にやや妄想的な解釈をするためではないか、などの説があります。
高齢者の一部には、生理的な変化として睡眠が浅くなったり睡眠時間が短くなったりすることを理解できず、若いころの睡眠の状態と比べて眠れないと思い込んでいる人もいます。
終夜睡眠ポリグラフ検査でみられるCAPは、実際には目覚めないまでも脳が目覚めようとする反応(覚醒反応)と考えられています。CAPの出現量は睡眠の不安定性の目安になり、ほかの不眠症患者でもよくみられますから、実際には睡眠の質が良くないのかもしれません。
逆説性不眠症の治療法・睡眠薬処方の問題点
病気の特徴を説明すると、不眠の悩みが軽くなります
生活保護受給者を使って大量に入手した睡眠薬を、インターネットなどで違法に販売している人もいます。このようなことが発覚すれば、麻薬取引と同様の厳罰がくだされます。不眠症と偽って複数の病院から処方された睡眠薬をインターネットで売りさばいた女性が、初犯にもかかわらず懲役5年の実刑判決をくだされた事例もあります。
逆説性不眠症は、その原因がまだよくわかっていないので、治療法も確定されたものがありません。検査では明らかな異常がなかった睡眠内容が時間とともに悪化したり、うつ病や不安障害、睡眠薬依存性睡眠障害を発症したりする可能性があるので、精神生理性不眠症と同様に認知行動療法を中心とした治療が行われます。