キリマンジャロと早朝の輝き
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朝日を受けるキリマンジャロ。モシのホテルから見た景色 ©牧哲雄
朝4時。
キリマンジャロ登山の起点となるモシのホテルの屋上で空を見上げる。満天の星空の一角に、ぽっかり穴が空いている。空がわずかに白みはじめると、水墨画のような淡い稜線が薄っすらと浮かび、穴は山へと裏返る。
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ウフル・ピークの氷河 ©牧哲雄
でもある瞬間、山頂は少し眠たい朝の空気を切り裂いて、キラリと鋭い光を周囲に放つ。周囲を睥睨するその純白の光はわずかずつ光る位置を変え、灯台のように何者かを導いている。
キリマンジャロ――スワヒリ語で「輝ける山」。
1848年に宣教師ヨハン・レプマンがロンドンで赤道直下に輝く雪の存在を報告したものの、ヨーロッパの人々は一笑に付し、信じる者はいなかったという。
赤道~極地を圧縮したキリマンジャロの気候と植生
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写真右側に突き出しているのがジャイアント・セネシオ。森林限界を超えた標高4,000m前後の高地に立つキク科の植物で、この植物ばかり生える場所もある ©牧哲雄
標高0m、タンザニア最大の都市ダルエスサラームの平均気温は1年中20度を下回ることはなく、夏の平均最高気温は30度を超え、40度近くになることもある。周囲には深い熱帯雨林が広がっている。
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固有種ジャイアント・ロベリア ©牧哲雄
さらに山を登ると日本のような温帯で見られる森林が広がっており、やがて低木ばかりの草原となり、草原は高さ数mにもなるジャイアント・セネシオやジャイアント・ロベリアのような奇妙で特有な植物が繁茂する高地へ続き、やがて植物がほとんどいない砂漠に至り、砂漠は雪や氷河へと接続する。
最高地点はウフル・ピークで標高5,895m。最低気温は-30度以下になることさえあり、極地のような気候となる。年間を通じても氷点下に維持されてきたが、ここ数年山頂の気温は上昇しており、万年雪と氷河が現在、消滅の危機にあるという。