世界遺産/アフリカ・オセアニアの世界遺産

キリマンジャロ国立公園/タンザニア(2ページ目)

赤道に輝く天然の氷河――最初は誰もその存在を信じなかった神秘の氷河であり、間もなく消滅すると言われる悲しい氷河。人生の節目に「素人でも登れる七大陸最高峰のひとつ」を訪れて、この奇跡を見てはいかが?

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

キリマンジャロと早朝の輝き

朝日を受けるキリマンジャロ

朝日を受けるキリマンジャロ。モシのホテルから見た景色 ©牧哲雄

キリマンジャロの朝は格別だ。

朝4時。

キリマンジャロ登山の起点となるモシのホテルの屋上で空を見上げる。満天の星空の一角に、ぽっかり穴が空いている。空がわずかに白みはじめると、水墨画のような淡い稜線が薄っすらと浮かび、穴は山へと裏返る。

ウフル・ピークの氷河

ウフル・ピークの氷河 ©牧哲雄

空が闇から深い青へ、青から緑へ、緑から黄へ、黄から赤へと変わる頃、墨色だった山肌は原生林の深い緑へと姿を変える。緩やかに進む朝の衣替え。

でもある瞬間、山頂は少し眠たい朝の空気を切り裂いて、キラリと鋭い光を周囲に放つ。周囲を睥睨するその純白の光はわずかずつ光る位置を変え、灯台のように何者かを導いている。

キリマンジャロ――スワヒリ語で「輝ける山」。

1848年に宣教師ヨハン・レプマンがロンドンで赤道直下に輝く雪の存在を報告したものの、ヨーロッパの人々は一笑に付し、信じる者はいなかったという。

 

赤道~極地を圧縮したキリマンジャロの気候と植生

ジャイアント・セネシオ

写真右側に突き出しているのがジャイアント・セネシオ。森林限界を超えた標高4,000m前後の高地に立つキク科の植物で、この植物ばかり生える場所もある ©牧哲雄

キリマンジャロ登山は赤道から極地への旅に等しいという。

標高0m、タンザニア最大の都市ダルエスサラームの平均気温は1年中20度を下回ることはなく、夏の平均最高気温は30度を超え、40度近くになることもある。周囲には深い熱帯雨林が広がっている。

ジャイアント・ロベリア

固有種ジャイアント・ロベリア ©牧哲雄

ここからキリマンジャロまで少しずつ標高は高くなり、キリマンジャロの北に広がっているケニアのアンボセリ国立公園で標高約1,100m。キリマンジャロの噴火で誕生し、ヘミングウェイが『キリマンジャロの雪』を書いたことでも有名なこの国立公園には、ライオンやゾウが暮らすサバンナが広がっている。

さらに山を登ると日本のような温帯で見られる森林が広がっており、やがて低木ばかりの草原となり、草原は高さ数mにもなるジャイアント・セネシオやジャイアント・ロベリアのような奇妙で特有な植物が繁茂する高地へ続き、やがて植物がほとんどいない砂漠に至り、砂漠は雪や氷河へと接続する。

最高地点はウフル・ピークで標高5,895m。最低気温は-30度以下になることさえあり、極地のような気候となる。年間を通じても氷点下に維持されてきたが、ここ数年山頂の気温は上昇しており、万年雪と氷河が現在、消滅の危機にあるという。
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