犬は嗅覚の動物……どのくらい犬の鼻はすごいの?
嗅覚は3~4歳の頃が最も敏感とされる。
<目次>
キノコやシロアリ、汚水に癌細胞も嗅ぎ分けられる犬の鼻
犬はその能力を活かし、人間の生活をサポートしてきてくれました。古くは猟犬や牧羊犬、橇犬として。時代を経るとともに警察犬や軍用犬、爆発物探知犬、麻薬探知犬、盲導犬、聴導犬、介助犬、災害救助犬など、様々なシーンで活躍する犬達が登場しました。ちなみに、災害救助犬としては地震があった際に活躍する姿がよく知られていますが、他に山で遭難した人を捜す山岳救助犬や、海・湖など水難事故で活躍する水難救助犬というのもいます。ちょっと変わったところではキノコを探すキノコ探知犬、キノコの一種であるトリュフに限定して探すトリュフ探知犬、海賊版のDVDやCDの発見に役立つポリカーボネート樹脂を嗅ぎ分けるDVD探知犬、シロアリに反応するシロアリ探知犬、クジラの生態調査で活躍するクジラの糞の匂いを嗅ぎ分けるクジラ探知犬、ハブなど毒蛇の匂いに反応する毒蛇探知犬、汚水調査で匂いの元を見つけ出す下水汚水調査犬、癌細胞を嗅ぎ分ける癌探知犬、ある種の発作の前兆を察知する発作探知犬なども存在します。癌探知犬の場合は、人間の吐く息や尿から癌特有の匂いを嗅ぎわけるもので、肺癌や乳癌、胃癌、大腸癌、膀胱癌などかなり効率で発見できるようです。
これらの仕事は優れた嗅覚があってこそできるものが多々。人間ではとても無理なことばかり。それだけ犬の嗅覚は素晴らしいということですね。
嗅覚が優れている理由は?
どうしてこれだけ嗅覚が優れているのかというと、嗅細胞の数を比べてみただけでも納得できます。嗅細胞というのは匂いの分子を感じ取る、いわばアンテナのような役目を果たすもの。匂いを感じると、それを電気的信号に変え、嗅神経や嗅球を経て脳に伝える働きをしています。この数が多ければ多いほどいろいろな匂いを嗅ぎ分けられるわけですが、人間では約500万個と言われているのに対して、犬ではダックスフンドで約1億2千500万個、ジャーマン・シェパード・ドッグで約2億個、フォックス・テリアは約1億5千万個、犬界一嗅覚がいいとされるブラッド・ハウンドは約3億個と圧倒的に多いのです。嗅細胞が存在するのは鼻腔の奥にある嗅上皮という粘膜部分。この面積が人間では約4cm²とされるのに対して、犬では約150cm²。鼻腔全体の容積は、人間が約25cm³であるのに対して、犬(ジャーマン・シェパード・ドッグ)は約98cm³と4倍近くあります。鼻腔内のひだを広げると、その広さは人間の10~50倍もあるとされ、鼻腔の構造自体が人間よりずっと広い分、嗅細胞の数もそれだけ多くなっているのが頷けます。
さらにもう一つ、鋤鼻器(じょびき)=ヤコブソン器官の存在。鼻腔の入り口近く、鼻腔と上顎との間にあるこの器官によって、一般的な匂いとは違うフェロモンに対して敏感に反応することができるのです。人間にもヤコブソン器官は存在するということですが、ほとんど機能していないと考えられており、まだあまり詳しいことはわかっていないようです。
最近のある研究では、犬は右の鼻の穴と左の鼻の穴とで別々の匂いを嗅ぎ分けられるという話もあります。このように、犬は匂いに対するキャパ自体が人間とはかなり違うのだということがおわかり頂けることでしょう。
どのぐらいの匂いまでわかるの?
では、犬はいったいどのくらいの匂いまでわかるのでしょうか?いくら嗅覚が優れているとはいっても反応しやすいもの、そうでもないものがあります。特に脂肪酸に強く反応できるということは、彼らが他の動物を獲物としてきた食生活を考えると自然の理に敵っています。ちなみに、脂肪酸は100万倍以上に薄めても嗅ぎ分けることができるのだとか。そして、匂いと言えば尿。犬達は他の犬が残した尿の匂いを嗅いでいろいろ情報を得ていますが、6000万倍に薄めた尿であっても感じ取ることができるというのです。トイレトレーニングの最中に失敗をした時など、次回から間違った場所でさせないよう綺麗に掃除をしておかないと犬にはすぐわかってしまうということですね。
その他、ニンニク臭⇒2000倍、スミレの花臭⇒3000倍、腐敗バター臭⇒80万倍、酸臭⇒1億倍(社団法人日本警察犬協会HPから引用)。人間には匂いがよくわからない塩分についても、それが含まれている水とそうでない水とを嗅ぎ分けられるということですから、人間からすると驚異的な嗅覚です。人間は情報を得るのに視覚に頼る部分が大きいですが、犬達は嗅覚を使って物事を立体的にとらえているのでしょう。
高鼻と地鼻って?
地鼻を使い、特に嗅覚の優れたハウンドをセントハウンドと呼ぶ
ちなみに、犬の鼻はボルゾイのように長い鼻からブルドッグのような鼻ペチャまでありますが、総体的に鼻の長い犬の方が嗅覚はより優れているとされます。また、毛色や鼻の色によっても若干差があり、より色素の濃い犬の方が嗅覚は優れているとも言われているのが面白いところ。
鼻が乾いていると病気?
鼻で思い出すのがこんな言葉です、「犬の鼻が乾いている時は病気だ」。はたしてそれは本当でしょうか? 確かに熱があったり、何らかの病気に罹って具合の悪い時に鼻が乾くことがありますが、実は眠っている時やリラックスしている時にも鼻は乾き気味になります。犬の鼻がいつも湿っているのは、鼻とつながっている外側鼻腺・涙腺などから常に分泌液が出ているためで、その他、舌で鼻先を舐めることによっても鼻に潤いを与えています。眠っている時やリラックス時には分泌液の量が低下するので、鼻も乾き気味になるのです。
では、鼻が濡れていると犬にとって何か役に立つことがあるのでしょうか? 鼻の頭が濡れていると匂いの微粒子をとらえやすくなるので、より匂いを敏感に感じ取ることができるのです。鼻が濡れているということは、犬達にとってはとても大切なことなのですね。
そういえば、こんな話もあります。ノアの方舟の物語では動物のつがいも舟に乗せられましたが、当然犬もいました。舟に穴が開いてしまった時、犬が鼻先をその穴に突っ込んで、それ以上の浸水を防いだというのです。以降、犬の鼻は濡れているのだと。犬の雑学談義のネタとして覚えておくといいかも。
匂いを嗅ぐ動作はストレスサインである時も
最後に、匂いを嗅ぐ・鼻を舐める意味について。犬が地面の匂いをクンクン嗅いだり、鼻先をペロッと舐めるような仕草は日常的によく見られます。「ん?知らない犬の匂いだ。どんな奴だろう?クンクンクン」と地面や草木、物の匂いを嗅ぐ。
「美味しそうな匂いだなぁ。もっと匂いをよく嗅いでみたい。ペロリ」と鼻の頭を舐める。
「あ…あいつ、なんだか怖そうな態度で近寄ってくる。もうちょっと落ち着けばいいのに。とりあえず地面の匂いでも嗅ごうっと。クンクンクン」とその場で匂いを嗅ぎだす。
「え?今日はシャンプーの日だったっけ?僕、シャンプー嫌いなんだよなぁ…」と鼻先をちょろっと舐める。
匂いをクンクン嗅ぐ・鼻先をぺろっと舐める、この仕草には単純に匂いを嗅ぐという目的とは別に、なんらかのストレスサインとして出る場合もあるのです。犬が頻繁にする仕草なだけに見逃すこともありますが、よく観察していると気づくこともあるでしょう。
犬の鼻は不思議がいっぱい。これだけでも、犬ってとっても面白い動物だと思いませんか?
参考資料:
「心理と行動から見た 犬学入門」大野淳一著/誠文堂新光社
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