「味博士」鈴木隆一
AISSY株式会社代表取締役
慶応義塾大学 共同研究員
味覚の研究をしていることから「味博士」と呼ばれる鈴木隆一先生は、ヒトの感覚を模倣した味覚分析・解析技術を用いて、「おいしさ」の数式化を行い、どんな食品とどんな食品を一緒に食べると「おいしい」のかを、科学的に検証することで、食品などの商品開発をサポートしておられます。
今回は、「おいしさ」を司る「味覚」と健康とのつながりについて、ご説明していただきました。
味覚とは、食べ物の情報を受けとめる感覚
私たち動物は、五感(触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚)を通じて、外からの刺激や情報を受け入れ、脳で判断して反応します。このうちの味覚は、主に口で感じることのできる感覚です。口の中には、食べ物の味の情報を受ける「味細胞」と呼ばれる細胞が舌の表面に集中し、中でも味蕾(みらい)が味覚の要です。味蕾には、脳神経につながり、味細胞で受けとめた味覚情報は、この味神経を通じて脳に伝達されます。また他にも咀嚼や食感、鼻から香り、目から見映え、耳から音などの情報も送られて、食べ物を認識します。
味蕾は、30~70個の細胞の集合体で、舌、軟口蓋、咽頭の上皮などに存在し、一般に成人で約7,500個あるといわれています。新陳代謝が活発で、味細胞はおよそ10日という短いサイクルで次々と新しい細胞と入れ替わっています。新陳代謝が衰えてくる高齢者は、味蕾の数が減少するので味覚の認知に時間がかかるのです。
味を感じるメカニズム
5基本味のうち甘味、苦味、旨味はそれぞれ受容体タンパク質の存在が明らかになっています。また塩味、酸味はイオンチャンネルが機能します。私たちが飲食物を味わう際にはこのようにバラバラの味に分解されて、脳に伝達されて感じるわけです。
私たちが、「おいしい」と感じる時、まず本能的においしいと感じられるのは、不足している栄養素を補うものと言えます。例えばエネルギーが必要な時は、エネルギーになる糖分や脂肪、体を作るタンパク質などがおいしいと感じられます。
また、苦味や酸味は毒や腐敗のシグナルではないかと判断し、本能的にためらいます。小さな子どもが、酸味のある酢の物や苦い味を嫌うのは当然のことなのです。
けれども食経験を重ねて学習したり、環境、また疲労やストレスを感じたりすることで体がその物質に含まれる成分を求めれば、酸味や苦味をおいしいと感じるようにもなります。大人になると、ビールやコーヒーがおいしく感じられるというのは、まさにその例です。
「味博士」鈴木先生によると、近年の傾向は、「大人であっても、例えばライトなビールが好まれるなど、苦味を避ける志向が強い」そうです。