<目次>
猫から人にうつる感染症を予防するのは飼い主の責任
猫からうつるものもありますが、人がうつすものもあります
ズーノーシスの予防は、2006年6月1日に改正・施行された動物愛護法で「(飼い主は)動物に起因する感染症(ズーノーシス)の予防のために必要な注意を払うこと」と明記され、飼い主の責任になりました。大切な家族を守るために、ズーノーシスについての正しい知識を持ち、飼い主としての責任を果たしてください。
猫から人にうつる病気、人から猫に病気がうつる病気とは
猫と人のズーノーシスは、猫の病気がそのまま人間に、またその反対で人の病気が猫に感染するというものはありません。猫がひどい風邪を引いても人間にはうつりませんし、人間のインフルエンザは猫にはうつりません(フェレットは人のインフルエンザに感染した例があるそうなので、フェレットを飼っている方はご注意ください)。問題になるのは、猫についたノミやダニなどの寄生虫や細菌が人間にも感染することで起こる様々な病気です。もし飼い主が野山を歩き回ってノミやダニのお土産付きで帰宅したら、人から猫にうつしてしまうこともあるので注意が必要。
猫と人のズーノーシス感染経路は様々です。たとえば、猫にいるおなかの虫(内部寄生虫)が人に感染するには、卵が口に入ることで感染する経口感染、虫が皮膚を食い破って侵入し感染する経皮感染などがあります。猫に噛まれたり引っ掻かれたりして感染する菌もあります。それぞれの病気の感染経路を知って感染の危険を減らしてください。
猫から人に、人から猫にうつる病気を普段の生活で予防するには
猫との暮らしで注意すること
1.定期的な駆虫
寄生虫についての正しい知識を持ちましょう。室内飼い猫で今現在寄生虫が確認できなくても安心せず、定期的な駆虫を続ける方がよいでしょう。駆虫は猫の健康だけでなく、飼い主の家族全員を守ることになります。
2.過剰なスキンシップを避ける
どんなに可愛くても、キスしたり口移しで食事を与えるなど、過度なスキンシップは避けましょう。猫と一緒に寝るかどうかの判断は飼い主次第ですが、小さな子供やお年寄り、また免疫系統に病気を抱えている人は寝室を別にした方が無難です。
3.猫に噛まれたり引っ掻かれないよう、傷を負ったら適切な処置を
突発的に猫に噛まれたり、引っ掻かれたらどうしようもありませんが、たいていは「もしかしたらやられる?」と思うような状況や、猫が発する危険信号で噛まれそうな気配がわかるものです。キレやすいタイプの猫は、必要以上に追いつめて興奮させないようにしましょう。
もし噛まれたり引っ掻かれたりしたらすぐに流水で洗い、傷口の消毒・手当をしましょう。猫に噛まれた場合、病院で診察を受けましょう。
4.何かをする前後には必ず手洗い
病原体は手から体内に取り込まれることが多いので、たとえば猫のトイレ掃除、猫のグルーミングを行った後などは、必ず石けんを使い流水で手を洗う習慣をつけをしましょう。その他、人は衣服や靴などに寄生虫やカビなどをつけて家に持ち帰ることがありますので、外出から帰ったらすぐに着替え、外出着は猫が触れることのできないクローゼットにしまう、また靴は下駄箱に入れる前に消毒をすると効果的でしょう。
5.猫と人が暮らす環境は清潔に
猫が暮らす環境はいつも清潔に保てるように掃除の回数を増やし、通気を良くしましょう。
6.猫は室内だけで飼いましょう
現在猫を外出自由にしているのであれば、食生活や就寝を猫と一緒には行わず、毎月必ず駆虫を行いましょう。猫と人の健康を考えるのであれば、猫は室内だけで飼うのがベストです。
猫から人に、人から猫にうつる病気1:外部寄生虫で感染する病気
猫につくノミやダニは、そのまま人にも寄生し、吸血したり様々な病変を起こしたりします。ノミやダニの駆虫を行い、猫がいる環境をきれいにしましょう。- ノミ刺咬症
人がノミに刺されると、ノミの唾液がアレルゲンとなりひどい痒みを生じます。刺された部分があっという間に水疱状になり、ひどく腫れたり熱を持ったりもします。
- ライム病
マダニによって媒介される細菌による感染症で、筋肉痛や関節炎、頭痛・発熱・悪寒などインフルエンザに似た症状が出て、その後皮膚炎や心疾患などを起こすことがあります。
- 疥癬/耳疥癬
猫ショウセンコウヒゼンダニや耳ヒゼンダニ(耳疥癬虫)に感染している猫を抱いたり、一緒に寝るなどで感染します。ヒゼンダニに寄生されると激しい痒みに悩まされ、水疱やじんましんのように腫れたりしますが、人への寄生はまれとされています。
- ツメダニ症
ネコツメダニという、白くい小さいフケのような寄生虫です。感染猫を抱いたり、一緒に寝たり、ノミ、シラミ、ハエなどが運んできて感染することもあります。人に寄生すると皮膚炎を起こし、強い痒みを感じます。猫の治療を行えば、人は自然に治ることが多いようです。
猫から人に、人から猫にうつる病気2:内部寄生虫で感染する病気
内部寄生虫に注意
内部寄生虫がいるかどうかは猫の便を検査して調べますが、タイミングによっては虫や卵が確認できません。駆虫薬は虫卵には効果がないので、一度だけ駆虫薬を飲ませても完全駆虫ができたことにはなりません。
猫を飼い始めたら、なるべく早い時期に検便を行い駆虫するだけでなく、その後も定期的に駆虫薬を飲ませる方が安心できるでしょう。駆虫薬の中には一般薬として販売されているものもありますが、効果や安全性を考えるのであれば動物病院で処方されるものを使用してください。猫のノミやダニ・内部寄生虫については「猫の寄生虫・ノミ・ダニの予防と対策」をご一読ください。
- 回虫症(猫回虫)
猫回虫は10cm以下の白いひも状の虫で、卵が排出された猫の便や、猫の毛についた虫卵が人の口に入ることで感染します。また回虫の卵は非常に丈夫で、土の中で何年も生き続けるので、汚染されている土壌などからも感染します。
口から入った回虫の卵は腸で幼虫になり、肝臓や肺などの内臓、目、皮膚の下、脊髄や脳に進入して様々な病害をもたらします。回虫の幼虫移行が起きるとトキソカラ症(臓器幼虫移行症)になり、重篤な症状を引き起こすことがあるので特にご注意ください。
猫の糞便で排出された回虫の虫卵が感染力を持つのは2週間前後以降といわれています。猫がウンチをしたらなるべく早く片付けましょう。
回虫は感染している母猫の母乳を通じても排出されるので、もし猫の出産を計画するのであれば事前に母猫の駆虫を行わなければいけません。子猫では発育不良になったり下痢やおう吐、便秘になったりしますが、健康な成猫だとあまり症状が出ません。
- 瓜実条虫症(瓜実条虫・サナダムシ)
条虫は50cmもの長さになる節のある虫で、猫の場合は腸壁に食らいつき血を吸うので貧血を起こします。
人は中間宿主であるノミを口にすることで瓜実条虫に感染しますが、瓜実条虫が人に感染することは非常にまれだとされています。ノミをつぶすときにノミの卵が飛び散ることがあるので、ノミは絶対に爪でつぶしてはいけません。口に入ったノミの卵は腸に寄生し、下痢や腹痛、肛門のまわりが痒いなどの症状を引き起こします。
効果的なノミ駆虫薬を使用し、ノミを退治してください。猫の生活環境内にノミの卵や幼虫がばらまかれていることがありますので、ノミの駆虫も定期的に行う必要があります。
- 鉤虫症
猫鉤虫は長さ1.5cm以下の白い糸のような寄生虫で、猫の小腸の壁に食いついて血を吸います。
猫の便から出た鉤虫の卵は土の中で子虫に成長し、土の上を裸足で歩いていたり素肌が土に触れた部分の皮膚を破って侵入してきます。クリーピング病(皮膚幼虫移行症)といって鉤虫が皮膚に寄生するとトンネルを造ってあちこちを掘り進んでいくので、様々な模様の赤い発疹が皮膚に現れひどい痒みを伴います。幼虫がリンパ管や血液に入ると腸壁に食いついて血を吸うので、貧血を起こし重度の病気に移行することがあります。
予防のために猫の駆虫を行いましょう。犬や猫の便が落ちていそうな場所では、素肌で土に触れないようにしましょう。
猫から人に、人から猫にうつる病気3:原虫で感染する病気
- トキソプラズマ症(トキソプラズマ原虫)
病原性原虫のトキソプラズマは、感染している猫の便から排出されますが、そのままでは感染しません。排出された便の中のトキソプラズマ原虫が感染できる状態になるのに24時間以上かかり、猫のウンチはすぐに片付けてしまえば何の問題もありません。
トキソプラズマに感染しても健康な人であればほとんどが無症状ですが、過去にトキソプラズマに感染したことがない妊娠初期~中期の妊婦さんが初感染すると、流産、死産、または生まれてきた子供に視力障害や脳障害が起こることがあります。これから妊娠する可能性がある女性は、事前に自分と猫のトキソプラズマの抗体を調べておき、それにそった対応をお取りください。
トキソプラズマというと猫が一番の悪者と思われがちですが、実はトキソプラズマは豚肉や汚染された土壌からの感染が多いという報告があります。豚肉は必ず火を通して食べる、ガーデニングをするときは手袋を着用して手洗いをすれば感染は防げます。トキソプラズマ症に関しては「猫と赤ちゃん・妊娠中の妊婦が同居するときの注意点」で詳しくご紹介しています。ぜひご一読ください。
猫から人に、人から猫にうつる病気4:細菌で感染する病気
口腔内にパスツレラ菌を持っている猫が多い
- 猫ひっかき病(バルトネラ菌)
猫ひっかき病は、バルトネラ菌をもった猫に引っ掻かれたり噛まれたりして感染する病気です。この病原体はノミによって猫の体に入り込みますが、猫ではほとんどが無症状。バルトネラ菌に感染している猫に引っ掻かれたり噛まれたりすると、数日~10日程度の潜伏期間の後、傷口近くが腫れたり水疱ができたり、リンパ節の腫れや痛み、発熱などの症状がみられることがあります。
健康な成人だと、ほとんど症状が出ずに自然に治ってしまいますが、免疫が落ちている人だと症状が出てしまうことがあります。猫が感染しないよう、ノミをつけないようにして、ノミがいたら駆虫してください。
- パスツレラ症(パスツレラ菌)
猫ひっかき病と同じく、パスツレラ菌を持っている猫に噛まれたり引っ掻かれたりして感染しますが、こちらの方が重傷になることが多いです。猫はこの菌を持っていても無症状。
国内の調査によると、調査した猫のうちの97%が口の中にパスツレラ菌を持っていて、この菌を手足に持っている猫は約20%でした。猫に引っ掻かれても大事にならず治ってしまうのに、噛まれるとズキズキとした痛みを伴い腫れ上がり大変なことになった、という経験者もいらっしゃるでしょう。
実はガイドも過去に一度だけ、うち猫にひどく指を噛まれたことがあります。噛まれた原因は猫が何度も「もうやめて!」信号を出していたのに、私がしつこくドライヤーをかけ続けたせいなので猫を責めることはできません。噛まれた夜には傷口が5倍ほどに腫れ上がり、指を動かすことはおろか腕を上げることもできなくなり、ズキズキ痛んで夜も眠れませんでした。翌朝一番で病院に行きました。このように口腔内にパスツレラ菌を持っている猫が多いので、噛まれたらすぐに消毒し病院で手当を受けた方が良いでしょう。体力が落ちている人だと気管支炎や敗血症になることもあるのでご注意ください。一番の予防は猫が出すシグナルを正しく理解して、猫に噛まれない、引っ掻かれないようにすることです。
猫から人に、人から猫にうつる病気5:カビで感染する病気
- 皮膚糸状菌症(真菌感染症)
皮膚糸状菌は水虫菌などと同じカビ(真菌)で、空気中のどこにでも胞子は存在します。高温多湿になる時期や、気密性の高い住宅などで猫がこの真菌症を発症すると治るのに時間がかかります。発病するのは子猫や免疫が落ちていたり、慢性病を持っている猫で、健康な猫はあまり発病しません。真菌症の猫と暮らしていても健康な人であれば感染は少ないですが、免疫力が弱っていたり皮膚の柔らかい部分が接触すると感染し、痒みを伴ったリング状の赤みを帯びた皮膚炎が起こります。猫の真菌症の治療を行うとともに、部屋の通気を良くし湿気を排除し、病中の猫との接触を控えてください。人が猫にうつす可能性もありますので注意してください。
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