実行するのではなく、実行させるという視点
- では、コンサルタントは実行まで手伝わなくていいということでしょうか?いえ、そういうことではありません。「実行」、「インプリメンテーション」という表現は、実に誤解を生みやすいと考えています。
経営戦略ファームといっても「インプリメンテーションは大事」という認識はずっと持ち続けられています。私が最初にキャリアをスタートさせた20年前から、業界ではずっとインプリメンテーションは大事と言い続けられていますし、そのスタンスはずっと変わっていません。
ですが、考えてみてもください。20年前と言っていることが変わっていないということは、ある意味で、それは不可能だと言っているようなものです。例えば20年間「禁煙」という目標を掲げているのであれば、20年間禁煙できていないということです。
少し話を変えて、医者の話をしましょう。
医者が「あなたの病気を治します」と言うとしましょう。言うのは簡単ですが、治すのも治るのも基本的には患者です。医者は外科手術や投薬などによって病気の治癒に関わりますが、患者自身が自らの治癒能力を発揮することなしには病気は治りません。医者の仕事は、患者に代わって「実行する」のではなく、患者自身に「実行させる」(より正確に言えば、「実行する力を発揮させる」)ということなのではないかと思います。「実行する」と「実行させる」は全く異なります。「実行させる」という視点に立ったときに見えてくることは、「実行できていない本質的な理由」は患者一人一人によって違う、ということです。
「もっと業績上げますよ」「実行までやります」と言うのは簡単です。しかしコンサルタントはその時たまたま入り込んでいる第三者であって、どこまで近づいていっても当事者、本人ではありません。患者ではありません。ですから、コンサルタントが一定のやり方を持ち込んでいって「もっと業績上げますよ」とか「実行までやります」というのではなく、クライアント一社一社の事情に応じて「業績を上げさせる」「実行させる」「そのための力を発揮させるように導く」ということがとても大事なのではないでしょうか。
その根本的な違いに気づいていない人が多いのではないかと思っています。
「実行させる」という視点を持つと、「本物の鏡になる」ということの意味が見えてきます。「本物の鏡」としてクライアントの「ありのまま」を映さずに、ただ「あるべき姿」を提示するだけでは、先ほど申し上げた「あるべき姿」と「ありのままの姿」の本質的なギャップにクライアントが気付くことは困難です。そうなると、クライアントは「あるべき姿」を提示されて分かった気になっても、時間の経過とともに元の「ありのままの姿」に戻ってしまいます。
-どのような人が「本物の鏡」としての資質がある人なのでしょうか?
人を前にして「私は彼のことをこう見る」、会社を前にして「私はこの会社のことをこう見る」、「この会社や経営者について、こういう見方をしている・・・」と話している方、つまり眼前の事象や現象を、借り物ではなく自分なりの視点で捉え、その性質や因果関係を感じる、あるいは考える習慣を持っている方は、鏡としての性質を持っている方だと思います。
「前にしたら自然に映し出す」という傾向を持っている方かどうかは、話していると大体分かる気がします。