しかし、この「家賃滞納データベース(DB)」をめぐり、賃貸現場で波紋が広がっています。
■悪質な滞納者を把握する。
連帯保証業者などでつくる「全国賃貸保証業協会」は、昨年9月、入居者の氏名、保証会社の家賃肩代わりの履歴などをDB化する方針を決めました。
それにより、滞納3ケ月程度としている「悪質滞納者」を特定し、ブラックリスト化することで、「悪質滞納者」を締め出すことができます。
大家さんから見れば、「悪質な滞納を繰り返す入居者はお断り」と思われるかもしれません。ただ、住居探しに苦労する失業者・日雇労働者からは、DBに対して不安や懸念があり、さらに日本弁護士連合会などからは、批判の声が出ています。
では、なぜ全国賃貸保証業協会は、日本弁護士連合会などからの批判を浴びながらも「家賃滞納データベース」を実施したのでしょうか。
■政府が新たな法案を施工。
昨年から、派遣切りや失業問題により、家賃滞納入居者への管理会社の厳しい取り立てが大きな社会問題となっています。特に、家賃の支払いがわずかに遅れただけで鍵を取り換えて部屋に入れなくする「追い出し屋」の被害が相次いでいます。
これを受け、政府は、悪質な家賃の取り立て行為の禁止や、家賃債務保証業と家賃弁済情報データベースの登録制度を主な内容とした「賃貸住宅における賃貸人の居住の安定確保を図るための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」の創設を、平成22年2月23日に閣議決定し、開会中の通常国会に提出。施行は、公布から1年以内を予定しています。
具体的には、
・鍵の交換
・深夜や早朝に連続して訪問や電話で家賃を取り立てる
・家具類の運び出しなど
さらに、法案には、大家さんや滞納保証業者が、取り立ての際に賃借人を脅迫するなど「私生活や業務の平穏を害するような言動をしてはならない」と明記されています。
違反した場合は、懲役2年以下または300万円以下、または両方の罰金が科せられる厳しい内容です。
法案施工後は、滞納督促はより慎重に行われられることになると思います。そこで滞納保証業者は、はじめから「悪質滞納者は、入居お断り!」とすることで、強行してでもDBを稼働させたと思われます。
■大家さんにとってのメリット。
では、「悪質滞納者」を管理しきれていない現状は、管理会社や大家さんにとっては不安です。そこで、考えられたのがDBであり、DBの目的を「リスクの高い長期滞納者の入居を制限し、業界を適正化する必要がある」としています。
これは、管理会社や大家さんからは歓迎させることであり、近年の大家さん軽視の賃貸現場を打開する、待ちに待った措置であり、賃貸現場を変えるきっかけとなる貴重な出来事だといえましょう。
■大家さんにとってのデメリット。
この法案が成立すれば、当然滞納保証業者は入居者を厳しく選別するでしょう。
そうなれば、今まですんなり審査に通っていた属性の人が、落ちてしまうケースが発生するかもしれません。
では、どのように判断基準を設けているのか。
全国賃貸保証業協会は、「失業や給料カットで突然家賃を払えなくなった人は入居制限しない」「短期滞納はDBに登録しない」などと説明しているようですが、あくまで線引きするのは各保証会社であり、基準はブラックボックスのようです。
つまり各保証会社の審査によっては、「滞納を起こす可能性の低い人も審査に落ちてしまう」、大家さんにとっては怖ろしい事態が多発するかもしれません。
しかし、今後ますます空室率は拡大していきますので、滞納保証の審査に落ちた人でも入居させなければいけない、苦渋の選択を迫られるケースが考えられます。
そこで大事なことは、基本に立ち返り、管理業者だけでなく今後は大家さんも電話で会話して直接入居の可否を判断したり、場合によっては大家さん自ら面接に立ち会うことが必要です。大家さん自身が新入居者の内容をきちんと把握することで、保証会社に頼らなくても、滞納リスクを軽減することができます。
たとえば、
・「転居の理由」を確認。転居動機を確認することで以前の居住状態や共同住宅で生活していけるかどうかの判断ができます。
・「身元および人柄など」を確認。入居申込書に記載された内容から確認します。調査・確認には、住民票での確認や勤務先に照会するなどの方法があります。連帯保証人の身元確認も同様になります。
・「収入面」を確認。会社員の場合、源泉徴収票により確認することになりますが、場合によっては課税証明書により収入実績を確認することになります。連帯保証人も同様に確認し、収入に問題ないか調べます。
・「定期賃貸借契約」で契約することで、悪質滞納者に対しては、再契約を拒絶することができます。
そうすれば、滞納保証業者の審査に落ちた人を入居させる場合でも、大幅にリスクを回避することができるのではないでしょうか。