例えば、借主の過失で設備が壊れた場合、1年で破損した場合と10年で破損した場合では、どちらが借主が負担する費用が多いと思いますか?
もし仮に「どちらにしても借主の過失なんだから、修繕負担はすべて借主だ!」なんてことになったら不公平だと思いませんか?
10年使用した場合と1年しか使用していない場合では、前者のほうが経年変化・自然損耗分を考慮されるべきであり、暮らした年数が多くなればなるほど借主の負担費用が安くなって当然です。
その考え方をグラフに表したのが下の図。
これは、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年3月31日大蔵省令第15号)を参考にされたものですが、例えばカーペットの場合には、償却年数は6年で残存価値が10%となるような直線に基づいて、借主の負担が決定される、というもの。これに基づけば、年数が経つほど借主の負担は少なくなるというわけなのです。
ただしこれはあくまでも新築の物件に入居した場合のこと。新築もしくは、設備を新しくしたばかりの中古物件に入居した場合には、その設備の価値が100%からスタートしますが、中古物件に入居した場合には、すでにその設備の価値が少し減少していますから、その程度に合わせて入居者負担の割合グラフも変更しなければなりません。
■長く住んでも考慮されないケースもある
例えば、フローリングに過失で傷をつけた場合。借主としては自分が傷をつけた一部分の修繕費用を負担しますが、本来フローリングのようなものはいつかは全面的に張替えをするのが一般的。いくら借主が一部分を修繕したとしても、つぎはぎの状態になってしまって、フローリングとしての価値はかえって減少してしまいます。
そこで、経過年数を考慮しないで借主が破損した分を負担したとしても、貸主にとってはその時点でのフローリングの価値がもとの状態より価値が上がるものになるわけではありません。
ということで、こういった部分については経過年数を考慮しないで、借主が損壊した部分の補修費用を負担するというのが妥当だと判断されるわけです。
同様に、ふすまや障子、たたみなども消耗品としての性質が強く、毀損の大小にかかわらずその商品価値は減少してしまうため、減価償却資産という考え方にはなじみません。そこで、フローリングと同様に経過年数は考慮せず、張替えなどの費用については、借主の故意・過失による毀損分だけを考慮して借主の負担とするのガイドラインの考え方です。
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今回は、国土交通省の原状回復ガイドラインについてお話しました。でも、「じゃあ、壁にカビが生えたらどうなのよ!」という疑問を持った方のために、より具体的な話を原状回復に関する事例をご紹介します。
次回もお楽しみに!