最近よく聞く「睡眠時無呼吸症候群」とは
最近、いびきの原因として注目を集めている病気が「睡眠時無呼吸症候群」です。これには、3つのタイプがあります。最も多いタイプが、「閉塞型」です。これは、鼻からのどに至る空気の通り道が詰まってしまうために、呼吸が止まるものです。
数は少ないですが治療が難しいタイプが、「中枢型」です。脳から呼吸筋への命令がなくなるため、呼吸しなくなるものです。また、閉塞型と中枢型の両方の要素を持つものを、「混合型」といいます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の睡眠中の主な症状は、次の通りです。
- 習慣性のいびき
- 周期的に繰り返されるいびきと無呼吸が特徴です。睡眠ポリグラフ検査では、1時間に5回以上の無呼吸や低呼吸(呼吸が弱くなること)が観察されます。
- 不眠
- 呼吸が止まって血液の中の酸素が少なくなったときや、苦しくなって息を再開するときに目を覚ましやすくなります。また、一晩に何回も目覚めるので、熟睡感がなくなります。
- 夜間頻尿
- 頑張って呼吸をしようとすると、心臓へ戻ってくる血液の量が増えます。そのときに尿をたくさん作らせるホルモンが出されるので、起きてトイレへ行く回数が増えてしまいます。
- 寝相が悪い
- 息が苦しくなると、もがくような動作や寝返りが増えます。
さらに睡眠時無呼吸症候群では、目覚めているときにも、いろいろな症状が起こります。
- 起床時の頭痛・胸焼け・喘息
- 睡眠中に血液中の炭酸ガス濃度が高くなるため、頭蓋骨の中の圧力が上がって、目覚めたときに頭痛が起こります。また、胃液が食道へ逆流すると、胸焼けや喘息発作が起きやすくなります。
- 日中の強い眠気
- 睡眠が浅く、細切れになるために、睡眠不足が蓄積されます。そのため、日中に強い眠気に襲われたり、大事なときに居眠りしてしまったりして、社会生活に支障をきたすこともあります。
- 性欲低下・勃起不全
- 睡眠不足がストレスとなるので、高い確率で合併します。
- 精神症状・性格変化
- うつ状態を伴うことが、よくあります。
睡眠時無呼吸症候群と生活習慣病の関係
太っているとのどにも脂肪がつきやすく、それが睡眠時無呼吸症候群の原因にもなります。逆に睡眠時無呼吸症候群では、新陳代謝に異常をきたすため、肥満する傾向があります。10%体重が増えると睡眠中の無呼吸や低呼吸が32%増加し、体重を10%落とすと無呼吸や低呼吸が26%減ると報告されています。
睡眠時無呼吸症候群は、インシュリンの働きを悪くします。そのため、新たに糖尿病を発症したり、すでにある糖尿病を悪くしたりします。睡眠の状態が改善されると、糖尿病のコントロールも良くなった、という報告もあります。
睡眠不足が続くと、交感神経の活動が活発になり、アドレナリンが多く分泌されます。そのため、高血圧になる危険性が高まります。高血圧は、心筋梗塞や心不全、脳卒中を引き起こします。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症者では、心血管系の病気になる確率が約3倍にはね上がることが知られています。
このように睡眠時無呼吸症候群は、生活習慣病やメタボリック・シンドロームの発症や進行に、大きな影響を及ぼしているのです。
いびきを起こすその他の病気
ただのいびきと思っていると、実は、治療が必要な病気が隠れていることがあります。以下は、睡眠時無呼吸症候群以外のいびきを起こす主な病気です。思い当たる節がある方は、早めに睡眠障害の専門医を受診しましょう。
- 鼻中隔彎曲症〈びちゅうかくわんきょくしょう〉
- 生まれつき、あるいは怪我によって鼻の真ん中の仕切り(鼻中隔)が曲がってしまう(彎曲)ことです。これによって鼻を通る空気に流れが乱れて、音が出ることがあります。また、鼻が乾燥しやすくなるので口呼吸になりやすく、舌がのどに落ち込んでいびきが出ることもあります。
- 鼻中隔穿孔症〈びちゅうかくせんこうしょう〉
- 鼻の手術や怪我、結核・梅毒などの病気のため、鼻中隔に穴があいてしまった状態です。穴が小さい場合には、鼻で息をするたびに笛のような音が鳴ることがあります。
- 肥厚性鼻炎
- アレルギー性鼻炎などで鼻の粘膜に慢性的な炎症があると、鼻の粘膜が厚くなって鼻づまりを起こします。鼻が詰まると口を開けて口呼吸になり、舌がのどに落ち込みやすくなります。鼻やのどが狭くなると、そこを通る空気が振動したり周りの組織を震わせたりして、いびきの原因になります。
- 鼻茸(はなたけ)症
- アレルギー性鼻炎や鼻の感染症により、鼻の粘膜が異常に増殖して盛り上がり、キノコ状のポリープになったものです。鼻の気道が狭くなったり、鼻茸自身が震えたりして、いびきになることがあります。
- 副鼻腔炎
- いわゆる「蓄膿症」のことです。顔や頭の骨の中に、「副鼻腔」という空洞があります。ここにバイ菌がついて炎症が起きると、鼻の粘膜にも炎症が及んで腫れてしまいます。副鼻腔炎では、慢性的な鼻づまりの他に、白や黄色あるいは緑色の鼻水、頭や目の奥、歯の痛み、発熱、悪寒などの症状が現れます。
- 口蓋扁桃肥大
- いわゆる「扁桃腺が腫れている」状態です。口蓋扁桃にバイ菌やビールスがついて炎症を起こすと、のどや耳の痛み、頭痛、発熱、倦怠感とともに、いびきがみられます。これは、大きくなった口蓋扁桃が、呼吸した空気の流れを妨げるために起きるものです。
- アデノイド肥大
- のどの奥にあるアデノイド(咽頭扁桃)は、感染やアレルギーによって大きくなることもありますが、もともと大きい子どももいます。アデノイドが大きくなると、鼻の後ろの出口が塞がれてしまい、口呼吸となりやすく、いびきをかきやすくなります。アデノイド肥大は、副鼻腔炎や中耳炎、睡眠時無呼吸症候群などの病気を起こすことがあります。
- 小顎症
- 最近の日本では、硬いものをしっかり噛む経験が減ってきた影響で、顎の発達が悪くなっています。見た目はほっそりしていて格好よいのですが、いびきの原因になります。顎が小さいと口の中の容積が減るため、相対的に舌がのどの方に押されて気道を狭めるからです。
- 巨舌症
- 母親が糖尿病にかかっていると、体重の重い大きな赤ちゃんが生まれてくる傾向があります。特に舌が大きいと、幼い頃からいびきをかいていることがあります。また、甲状腺機能低下症や骨髄腫、原発性アミロイドーシスなどの病気のときにも、舌が大きくなります。
- 甲状腺機能低下症
- 体の新陳代謝をコントロールする甲状腺ホルモンが減ってしまうと、体のあちこちがむくみます。のどがむくんだり、舌が大きくなったりすると、いびきをかくようになります。甲状腺機能低下症では、顔のむくみや体重増加、貧血、低体温、脱毛、皮膚の乾燥、月経過多、手足のしびれなどが見られます。
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
- 2003年に山陽新幹線の運転手が、この病気のため運転中に居眠りをして、停車駅をオーバーランしたことで有名になった病気です。詳しい症状などは、次のページでご紹介します。
- 上気道抵抗症候群
- 睡眠中に気道の抵抗が大きくなり、努力しないと息を吸えなくなった状態です。呼吸が止まることはありませんが、血液中の酸素の量が少なくなるため、夜中に何度も目覚めてしまいます。毎日が睡眠不足なので、日中に強い眠気に襲われます。睡眠ポリグラフ検査と食道内圧測定を行うと、診断されます。
- 多系統萎縮症
- 脳のオリーブ核や橋、小脳が萎縮してくる多系統萎縮症という難病があります。運動や感覚の神経、それに自律神経も麻痺してきますが、今のところ、有効な治療法がありません。この多系統萎縮症では、のどでも肺に近い声帯部でいびきのような音が生じます。
- 睡眠関連うなり(カタスレニア)
- 2001年に睡眠中に起こる症状の1つとして報告された、比較的新しい症候群です。これは睡眠中、深く息を吸った後に、長くうなりながら息を吐き出すことが、毎晩のように続くという特徴があります。本人は何も自覚症状がなく、無呼吸も見られません。