宇宙で眠るときに困ること
アメリカではアポロ計画の後、1973年から翌年にかけてスカイラブ計画が行われました。スカイラブ計画は、宇宙ステーションを打ち上げて、その中で宇宙飛行士が長期間滞在し、無重力空間での実験や研究を行うものです。
このとき、睡眠状態の客観的な研究のために、睡眠ポリグラフ検査が合計50夜にわたって記録されました。それによると、総睡眠時間が少し短縮したり、やや寝つきが悪かったりする傾向はありましたが、睡眠の内容やリズムはほぼ正常なことが明らかとなりました。
宇宙でも、よく眠れたり眠れなかったりします(画像提供:NASA)
ただし、宇宙空間での生活には、不眠になりやすい独特の原因もあります。それは、次に挙げるようなことです。
■宇宙酔い
宇宙に出てから3日目くらいまで悩まされることがある、乗り物酔いの宇宙版です。重力がある地上では、目からの情報と脚の筋肉からの情報、そして耳の奥にある前庭という感覚器官からの情報の3つを総合して、バランス感覚を保っています。
ところが、重力がほとんどない状態になると、目からの情報しか脳に入らなくなるので、平衡感覚が乱れてしまい、乗り物酔いの状態に陥ります。そのため、睡眠が妨げられることがあります。
■ムーンフェイス
地上では重力によって脚に貯っていた血液が、重力が減ったために頭の方に移動して、顔がむくむことです。顔が満月のように丸くなるので、「ムーンフェイス」と言います。これは、余分な水分を尿にして体の外に出す働きによって、宇宙滞在3日目までには治りますが、それまでの間は鼻が詰まったりや頭が重く感じたりして、うまく眠れなくなることがあります。
■睡眠と覚醒のリズム障害
地上では24時間周期で、昼と夜が分かれています。朝起きたときに、2,500ルクス以上の明るい光を浴びることで、体内時計がリセットされています。ところが宇宙船内では、この明暗の変化が少なく、場所によっては最大でも1,000ルクスの明るさしかないため、体内時計が狂うことがあります。そのため、時差ボケの症状が続いたり、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌量が減ったりします。また、季節性うつ病のような気分障害を起こして、過眠気味になることもあります。
■眠気が事故を起こす危険性
宇宙に滞在できる時間が限られているため、宇宙飛行士は実験や作業に追われています。しかも、すべての業務が重要で、ときには生命が脅かされる危険にさらされることもあるので、毎日が緊張の連続です。ところが、いったん緊張がゆるむと、逆に眠気に襲われることがあります。1997年に起こったロシアのミール宇宙ステーステーションと補給宇宙船の衝突には、宇宙飛行士の眠気が関与した可能性も指摘されています。
実際に経験するのはまだかなり先のことでしょうが、宇宙旅行中にもグッスリ眠れるよう、今から準備をするのも楽しいかもしれません。
【参考サイト】
宇宙といえば
宇宙百科事典
宇宙航空研究開発機構
睡眠のメカニズムとリズム
睡眠環境・寝室・ベッドの工夫