若かりし頃にかえる家




「こういう古い家に入ってきた途端、お年寄りの目が輝きだすんです」と宅老所「大庭の家」の職員、中村みゆきさん。






「大庭の家」は長野県小県郡真田町にある社会福祉法人恵仁福祉会・高齢者総合福祉施設アザレアンさなだのサテライトのひとつです。近隣のお年寄りが日中を過ごしたり、ショートステイしたりできるこの施設は、長野県が実施した「痴呆性老人先駆的処遇モデル事業」のひとつとして平成9年に開設されたもの。驚かされるのはその古さです。なんと百年も昔の百姓家を改築したということ。間取りは4LDK。現在、4名のお年寄りが利用しています。


改築したとはいっても、台所、浴室、トイレといった部分のみ。みんながくつろぐ居間などはほとんど手付かずのまま残されています。土壁の部屋を仕切るのは、無垢の一枚板に中桟を入れた「帯戸」。中央に障子が入った珍しい板戸もあります。そして木枠の窓にはめられている昔懐かしい磨りガラス。部屋の隅に飾られた茶箪笥や額縁も昔を偲ばせます。中央には大きな炬燵が据えられ、お年よりはそこで雑談したり居眠りしたり。ゆったりとした時間を過ごします。「昔はどこもこんなだったよ――」自分が生まれ育った家を思い出すのか、誰もがのびのびとした表情になるそう。


気力よみがえる例も
古い家は、お年寄りをくつろがせるだけでなく、生き生きとした気持ちにさせるようです。たとえば食事づくり。大庭の家では利用者自ら町に買物へ出かけ、料理をします。もちろん、男性も例外ではありません。中には手づからうどんを打つ高齢者(男性)もいるのだとか。自宅ではほとんど台所に入らない人だったそうですが、まるで別人のように張り切り、絶品のうどんをふるまってくれるとのこと。環境次第で身体状態や痴呆症状はめざましい回復を見せることもあるのです。


アザレアンさなだでは、「大庭の家」のほか、「曲尾グループホーム」「中原グループホーム」と2つのグループホームを運営していますが、いずれも古民家を活用したもの。お年寄りに普通の暮らしを続けてもらうためには慣れ親しんだ雰囲気が一番――それが同施設の大きな理念のひとつだからです。


とはいえ、まったく問題がないわけではありません。玄関の段差は出入りしにくく、バリアフリーという観点から言えば、不便な面も見られます。雪の多い土地柄、しっかり造られているとはいえ、木枠の窓からはちいさな隙間風が吹き込むこともあるでしょう。しかし、そうした家で長年暮らしてきたお年寄りにとっては、いずれもささいなことにすぎないのではないでしょうか。お年寄りがなごめる場所とは、病院然とした新設の施設ではなく、こんな古民家かもしれません。
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