なんと、長期間にわたるセレンのサプリメント(1日200マイクログラム)摂取が、2型糖尿病の発症リスクを高めたというのです。糖尿病の予防どころか、むしろ危険なものだったのです。
[Annals of Internal Medicine. 21 August 2007]
セレンサプリで皮膚ガン予防?
この研究は7年以上にわたって1,202人をランダムに2分して、一方には200マイクログラム/日のセレン・サプリを、もう一方にはプラセボを投与したものです。これはセレンと糖尿病の研究ではありませんでした。実は皮膚ガンとセレンの研究だったのです。
アメリカでは、メラノーマ(黒色腫)以外の皮膚ガンの患者が、血中セレン濃度が低い地域に住んでいる人達に多くみられるという傾向があります。
研究の被験者1,202人はそういう人達だったのです。皮膚ガンだけど糖尿病ではありませんでした。そこで食物から取る1日分相当のセレンをサプリで与えてみたのです。
英語ではSelenium(セレニウム)と言いますが、セレンは1969年に哺乳動物にとって必須なミネラルであることが証明されました。体重70kgの人の体内に、わずか12ミリグラムあるとされる超微量元素です。普通は食物から十分に摂取できますが、土壌中にセレンが特に少ない地域があります。たとえば中国の東北部の山岳農民にみられる克山病(うっ血性心筋症)がセレン欠乏症の代表例です。
さて、セレンと皮膚ガンを調べた研究で、二次的な結果としてセレンのサプリが2型糖尿病の発症リスクを高めることが分かったのです。
平均7.7年間のセレン・サプリ摂取で58人が2型糖尿病になりました。プラセボ組では39人でした。1年/1,000人あたりに換算すると、セレン・サプリ組では12.6ケース、プラセボ組では8.4ケースです。特に、実験当初から血中セレン濃度が高いのにセレン・サプリを取った人に2型糖尿病が多く発症したのです。
研究者は、セレン・サプリメントは2型糖尿病予防にはならない、むしろ糖尿病のリスクを高めるようだと結論づけています。
この研究はセレン・サプリと皮膚ガンの関係を調べるものでしたから、被験者の血糖値は検査していません。また、糖尿病についても自己申告です。そして対象者は主に高齢の白人です。
ですから、必ずしもセレン・サプリが糖尿病を増やすという実証ではないことに留意してください。
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