人事が切望する"自律した学生"
「日本の大学や高校、中学における職業教育は欧米に比べきわめて遅れていると批判されている。この場合の職業教育とは、手に職をつけるための技術的な教育の類ではなく、働くことに対する前向きな意識やイメージを作り上げていくための教育だ。(中略)日本では職業教育がほとんど行われず、働くことに対する問題意識が希薄なまま学生時代を送り、ある日突然、就職を迫られる。」(出典:『キャリア論』高橋俊介)
職業教育。働くことに対する前向きな意識やイメージを作り上げていくための教育。
昔は働く親の背中を見て「働くんだろ、大人になったら」と思っていた。でも時代は変わった。すでに就職意欲がなく働かない、「ニート(NEET=無業者)」と呼ばれる若者たちが、平成15年に63万人と急増(10年前の1.6倍)。就職活動をしないことからハローワークなど公的機関経由の接触も困難。少なくとも働く意思はあるフリーターよりつかみどころがない存在で、職業人育成システムの再構築が必要だと独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の小杉礼子さんも提唱している。(出典:『ビジネス・レーバー・トレンド』創刊号「増加する若年非正規雇用者の実態とその問題点」小杉礼子)
そして、大学や高校、中学も職業教育に手を上げ始めた。
例えば立教大学は必修科目として1,2年対象に「仕事と人生」と題した講義を導入し、立命館大学もキャリア形成に関する科目を18科目指定(OGに取材する「キャリア探偵団」など)し、キャリアセンター自身が講師やカリキュラム作成に関わっている。これから少子化・全入時代を迎える大学生き残りの施策のひとつとして就職支援を取り入れる大学は増えるだろう。
また、元リクルート・フェローの藤原和博さんが校長を務める杉並区立和田中学校は、よのなか科をカリキュラムに取り入れ中学生に仕事やビジネスに触れる機会を施している。
兵庫県では全公立中学校の2年生全員に「トライやる・ウィーク」として5日間仕事体験(アメリカで言うコーオペレイティブ)を実施している。とくに「トライやる・ウィーク」は挨拶などマナーや仕事研究など事前学習から、体験発表やお礼状作成など事後学習も実施し、体験する仕事も一般的な販売職から、盲導犬訓練・刀鍛冶・和紙製作・海苔養殖など多彩。結果、保護者の感想も良好で、地域の連帯感にも貢献し、何より学生に新鮮な経験を与えることが将来のキャリア自律に支援やニートの減少に繋がることを示唆している(不登校学生の45.3%が全日参加するなど)。
「キャリア自律に不安を持つ若者たちは(単に人気の企業や職種を選んだり、根拠の無いトレンドに流されたりして)現状から逃げようとする。しかし多くの人は、本当にしたいことは何?自分を活かす仕事は何?自分を成長させることとは何?と聞かれてもなかなか回答できないのである」(出典:『一橋ビジネスレビュー 2003年夏号.SUM.(51巻1号)~キャリア自律の新展開』)
つまり就職前に就職先の仕事がイメージできる仕組みなど、自立的な意思決定を支援するための新しい取り組みを、兵庫県や杉並区和田中学校、立教・立命館大学だけでなく、全国規模で実施されることを切に願う。
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もちろん、今就職活動中のみなさんは、「そうか。私は職業教育をちゃんと受けていなかった」ことを悟り、「だから今から、働くことに前向きな意識やイメージを、自分の力で作り上げなくてはいけないんだ!」と思って欲しい。「ふん!就職なんて」「ああ、就職活動ってブルー!」なんて思ってしまうのは、ある意味仕方ないけど、ぶーたれていても、何も変わらないし、誰も助けてくれない。自分で何とかするしかないんだ。
自分で何とかすれば、内定は近い。
なぜなら、人事が欲しがる学生は、「働くことに前向きな意識やイメージを作り出せる学生」なのですから。