翻訳の難しさ
「いざ翻訳をしようとすると、できないんです。英語も日本語も喋れるのに翻訳できない。手紙一枚を翻訳するのに一晩かかったこともありました。意味はわかってもどう日本語で表現をすればいいのか、これが難しかったですね。」納期に間に合わないとエージェントにせかされ、仕上げたら仕上げたで翻訳の質に対してクレームがくるといったことも。
日本語でどう表現をするのか。翻訳を専門的に学びたいと思っても、台湾には翻訳学校そのものが少なく、あっても台湾人向けの翻訳学校。
つまり、中国語でどう表現するかは勉強できても、日本語でどう表現するかを専門的に学ぶことはできないのです。
自分で勉強をするしかない環境の中、乃利子さんは翻訳に参考になりそうなものをかき集めるようにして翻訳力アップを目指します。
「日本に一時帰国をした際に、「ビジネス文書の書き方」や「正しい敬語」といった社会人向けの実用書や、さらには実家にあったストーブの取扱説明書まで集めて台湾にもって帰りました。
「お子様の手の届かないところに保管してください」などといった言い回しがいざとなると出てこないのです。」
台湾に住んでいればなおさら、日本で日常的に使われている言い回しもあらためて表現しようとすると、でてこないもの。
また初めての翻訳業界、しかもビジネス習慣の異なる外国での仕事。最初は台湾人のビジネスの仕方もわからずとまどうことが多かったそうです。
「台湾人のビジネスの仕方を理解し、業界を理解し、エージェントとの真の信頼関係を築いてお互いを尊重して大事にすることができるようになるには2年くらいかかりました。」
中日翻訳への挑戦
台湾で英語→日本語の翻訳者が少なかったために未経験ながら仕事を任された、というメリットの反面、ニーズ自体が少なく、英日翻訳だけでは仕事量が限られてしまいます。そこで乃利子さんは中国語→日本語の翻訳も始めようと決意をします。
それには中国語の読解力が必要。台湾に来て以来、中国語の会話の勉強は続けていましたが、読解力アップにフォーカスし、更に勉強をします。
中国語翻訳者としては未経験とはいえ、英日翻訳の経験を着々と積み、翻訳そのものに慣れ、そしてエージェントとの信頼関係も築け始めていたため、お付き合いのあるエージェントから中国語の翻訳の依頼ももらえるようになります。
「それでも、最初の一年くらいはひどいものを納品していたと思います(笑)」