女性の転職/女性の仕事カタログ

お客様に感動を与える ホテルマン(前編)

結婚か?仕事か? 仕事をもつ女性なら、一度は悩み迷うそのハザマで、自分を見失わず逆境を乗り越えた女性ホテル支配人をご紹介。キャリアアップの経緯は、業種に関わらず全ての女性の心に染みるお話です。

執筆者:三輪 貴子

【ホテルマン】永末 春美さん短大卒業後、豪華客船運営会社などを経て1998年ホテルトアロード 支配人に就任。2005年には、支配人に就任するまで、就任後ホテルを建て直していく経緯をつづった著書「情熱と感動の仕事術」を発刊。多くの働く女性の共感を得ている。現在は各地での講演など活躍の場を広げている。
話 題 度  ★★★☆☆
難 易 度  ★★★★☆
かかる費用 ★☆☆☆☆

結婚か? 仕事か? 私は、今から何を目指していけばいいのだろう・・・
女性なら、一度は悩み迷うそのハザマで、自分を見失わずに逆境を乗り越え、ホテル支配人のポジションに就き、活躍中の女性がいらっしゃいます。その女性こそ、ご紹介をするホテルトアロード 支配人の永末春美さん。今回は、永末さんが歩み続けこられた20代のキャリアを前編に。支配人として就任後のお話を後編として、お届けいたします。ホテルウーマンだけでなく、今、自分の道を見失ったような気持ちで不安に感じていらっしゃるすべての女性へ、想いをこめてお届けします。

「自分のことを見失わないようにしなさい」 ~忘れられない上司の言葉~

短大を卒業後、新しく豪華客船を運営する会社へ入社し、社会人としての第一歩を踏み出しました。料飲企画課に配属され、船の中で開催するイベントの企画などを担当。当時は、まだまだ学生気分。仕事のスタイルも「指示まちタイプ」で、上司への指示をあおいで仕事をするのが当たり前だと思っていました。ところがある日、いつものように上司へ指示を仰いだときに、「それを自分で考えるのが仕事やろ?」と諭されたのです。このときのことは、いまだにはっきりと覚えていますね。「間違えているかもしれないけれども、一度は自分で考える。教えてもらうのではなく、考えなさい。」ということは、その上司から、その後もよく言われました。思い返せば、これが仕事の基本なのだと思います。客船の仕事はとても楽しく、社会人としての責任感も芽生え始めたころ、バブルが崩壊。客船の売却が決まり、会社を退職しなければならなくなりました。楽しい仕事を辞めなければならないとわかったとき、「会社」というものは、売上を上げ、経営が成り立たなければ存続することはできないのだということを、初めて、そして強く感じました。客船での最後の日、厳しかった上司に、「自分のことを見失わないようにしなさい。」といわれたこの言葉は、多くを学ばせてくれた上司への感謝の気持ちとともに、今でも忘れることができない大切な言葉として心に残っています。

その後、上司に、神戸に新しく開業するホテルがあるから、と紹介をしてもらい、ホテルの開業準備室へ入社。開業のときにしか味わえない高揚感を楽しむことができました。入社後1年は宴会予約課へ、その後営業へと配属になりました。ホテルの営業は、お客さまからイヤがられる営業ではありませんので、ホテル在職中は、多くのお客さまにかわいがっていただき、特に営業をしなくても、待っていればお客さまからご予約をいただける、どちらかといえば受身的な営業でした。思えば、それは本当の意味での営業ではなかったのですが、そのときは、自分はがんばっている、自分は仕事ができていると思い込んでいました。その思いは、後になって、ちょっと勘違いをしていたな、と思うようになるのですが・・・。(笑)

手放してはじめてわかるもの ~ホテルマンの求人~

ホテルの退職は、客船の運営会社を退職したときとは異なり、自分の意思で決めました。受身的な営業ではなく、自分から外へ外へと出て行く営業をしたいと思い始めていたころ、外資系保険会社にお勤めのお客様に声をかけていただいたのです。そして、ホテルを退職。入社試験をうけて外資系保険会社へ入社をしました。今まで自分が知らなかった金融の世界の勉強、加えて、多数いらっしゃった経営者のお客様の信頼を得るために、経営者が何を考えているのかを自分なりに考える材料として、多くの本を読むようになりました。成果報酬型でしたので、毎月給与額には波がありました。それまでは、同僚たちと、「会社が○○だ、上司が、社長が○○だから・・・。」とグチっぽく言い合うこともあったのですが、そのときはじめて、会社から毎月きまったお給料がもらえるありがたみを感じ、自分で稼ぐということがどれだけ厳しいかということも身にしみてわかりました。もしも私が保険会社へ転職せずに、そのままホテルに勤め続けキャリアアップをしていたら、支配人になれたかどうか、自分の心の中でも疑問が残ります。うまくいかない理由を会社や日本経済の責任にしても、何一つ物事は前にすすまない、ということも肌で感じることができ、大きな勉強になったと思っています。

保険会社へ入社したときは、ホテルに勤めていたころのお客様から「がんばってるから」と契約をいただくなど、実績を挙げていましたが、そのような状態が長く続くはずも無く、金融の知識も薄い上に、そのころは人間力もありませんでしたので、成績は安定しませんでした。成果主義の仕事は、組織はなくフラットですから、すべてを自分で学び、仕事を進めていかなければなりません。そうするうちに、だんだんと、すだれのように結びつきチームワークが大切なホテルの仕事を思い出すようになったのです。ホテルは、お客様が予約の電話をされ、それを受けるスタッフ、チェックイン・アウトの業務をするスタッフ、レストランのスタッフ、清掃スタッフなどすべてがうまく流れ、歯車のように回ってはじめてお客さまにご満足いただけるホテルを作り上げることができるのです。このコミュニケーション力こそがホテル力。ホテルの仕事が懐かしくなり、改めてホテルの魅力を懐かしく感じました。手放してはじめて、その大切さがわかるものもあるのですね。もう一度ホテルへ戻ることができたら、もっといい仕事ができる、ホテルの仕事に戻りたいと思うようになり、求人情報誌をめくりながら、ホテルの仕事を探す日々が続きました。そして、とうとう、ホテルトアロード 副支配人募集の求人広告を見つけたのです。
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