労災適用による補償の違い
労災認定を受けられるかどうかは、その後の生活にも大きく関わってきます。下に、労災の適用を受けられたときと受けられなかったときの補償内容の違いを挙げておきますので、しっかりと内容を把握しておきましょう。
<労災適用の可否による補償の違い>状 況 | 労災が適用になった場合(労災保険による補償) | 労災不適用の場合(健康保険等による補償) | 病院で治療を受けたとき | ・療養補償給付自己負担なし | ・療養の給付3割を自己負担 |
仕事を休んで給料の支払いを受けられないとき | ・休業補償給付・休業特別支給金給付基礎額(平均賃金相当)の約8割最長1年6カ月間 | ・傷病手当金標準報酬の6割最長1年6カ月間 |
回復が1年6カ月以上長引いたとき | ・傷病補償年金・特別支給金給付基礎額の245日~313日分+一時金100~114万円 | - |
治癒後に障害が残ったとき | ・障害補償年金・特別支給金障害等級に応じて年金か一時金を支給 | ・障害年金・障害手当金年金保険から障害の程度に応じて支給 |
運悪く死亡したとき | ・遺族補償年金・一時金・葬祭料残された扶養家族もしくは父母に支給 | ・埋葬料標準報酬の1カ月分 |
なお、営業担当者が外回り中に交通事故を起こした場合などで、それがいわゆるもらい事故である場合であって、過失相殺の割合に応じて、相手に損害賠償請求が可能なときは、労災保険で補償する範囲でその損害賠償請求権を労災保険が代位取得するか、労災保険から支払われる給付額が減額されるか、もしくは不支給(労災による補償額を超えている場合)となります。
労災認定が裁判になる理由/労災が認められない2つの事情
労災の申請は、その災害に遭った本人、または本人が死亡した場合にはその遺族が、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に申請します(病院で手当を受けたときの治療費は、その病院に申請書を提出すれば、病院から労基署に回送されることになっています)。
しかし、申請したからとって、すべての人が労災適用を認められるわけではありません。そのため、労災の適用を巡って、ときには裁判で長期にわたって争われることもあります。
労災が認められないという状態に至るには、2つの事情があります。
●一つは、会社が労災申請に協力してくれないことです。労災は、その災害が発生したことに会社責任があるかどうかには関係なく、あくまでも保険の趣旨に従って認定されるものです。そのため、会社には、社員が労災を申請する際に協力するよう義務が課せられています。
しかし、労災を申請する社員が多いと会社の評判が落ちるとか、会社が負担している保険料の料率が上がってしまうなどの理由で、協力を渋る会社もあるのです。
●もう一つは、前述した「業務遂行性」と「業務起因性」を巡っての、労基署の判断の問題です。とくに、『過労死』や『うつ病』など「心因性の病気」の場合には、もともと持病があったのではとか、家庭の事情など仕事を離れた部分での負荷が大きく影響しているのであって、必ずしも仕事に起因するとはいえないなどと判断され、労災適用が見送られる例が少なくありません。
労災認定までに15年を要したケースも
現に、厚生労働省の発表では、今年度上半期(4~9月)に、過労や人間関係のストレスが原因で、うつ病などの精神障害を発症したとして労災を申請した件数は246件ありますが、このうち認定されたのは47件でしかないのです。
労基署の判断を質すために裁判に訴えるとなると、かなりの時間と労力が費やされることを覚悟しなければなりません。今年9月に最高裁で判決が出されたケースは、海外出張中に十二指腸潰瘍を再発した人について、出張は過重な業務で、持病が再発したのはこの業務が原因として、訴えを退けた1、2審判決を覆して労災の認定が下されたのですが、病気が再発したのは1989年ということですから、結論が出るまでに足かけ15年を要したことになります。