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【金融不安と橋本退陣、小渕=野中体制へ】
金融不安と「官僚バッシング」
新進党がなくなった今、橋本政権にまったく敵はいないはずでした。しかし、「金融不安」という波が、橋本政権に襲いかかります。1997年末は国民に大きな衝撃と不安をもたらす時間となりました。大規模小売店ヤオハンが会社更生法を適用したのに続き、三洋証券が破たん、この影響をもろに受けて北海道拓殖銀行も破たん。
そして国民に強烈なインパクトを与えたのが、さらにこのあおりで生じた日本4大証券会社・山一證券の自主廃業でした。バブル時代の無理な投資で生まれた不良債権は、まったく処理し切れていなかったことが、白日の下にされされました。
また、98年はじめには第一勧業銀行にからむ総会屋事件から、大蔵省官僚を逮捕。この過程で、金融業界と大蔵省の癒着ぶり(「MOF担」とよばれる銀行員と官僚の過剰接待など)、が浮き彫りになり、官僚バッシングも激しくなります。
しかし、橋本首相は有効な手段を打ちませんでした。
橋本首相は後年、「自分のところに情報が上がってこなかった」ことを強調していますが(『日経ビジネス』2000.1.17号)、当時の大蔵省次官はどちらかといえば小沢派で、財政出動にも慎重。
そして行政改革の議論の中で浮上してきた大蔵省からの金融業務分離(結局これはほぼ実現して、現在の金融庁は財務省ではなく内閣府の外局)への組織としての抵抗。……このようなことから、橋本首相に正確な景気動向が伝わらなかったのかもしれません。
急激な景気悪化に対応できなかった橋本首相
しかし、このような金融不安と、97年のアジア通貨危機のあおりを受けた日本経済は明らかに悪化していました。消費者物価指数も卸売物価指数も、98年の春から大きく減少。「デフレ」、「デフレ・スパイラル」という言葉が使われはじめるようになりました。しかし、情報不足のせいか、橋本首相には危機感がありませんでした。積極財政はとらず、逆に98年度当初予算では政策経費を11年ぶりに削減。財政再建という観点からは正しい判断だったかもしれませんが、結果的に景気の悪化を招いてしまいます。
それでも、春以降ますます本格化する景気減速に対し、橋本政権と自民党は4兆円の特別減税を打ち出します。それは、夏に行われる予定の参議院選挙を控えたものでした。しかし結果的にこれが裏目に出たのでした。
各党はこれに対し特別ではなく「恒久減税」を主張し減税合戦に。これに危機感を感じた自民党も公約を恒久減税にすべきと考えます。選挙戦に入ると、実際そう公言する人たちも現れました。
ある意味「生真面目」なのか「頑固」なのか、財政再建を掲げてきた橋本首相はそれを受け入れることができないでいました。そんな彼に引導を渡したのがテレビ朝日の『サンデー・プロジェクト』でした。
「増税はしないということだ」「中立(増減税なし)ということだろう」生出演しこう答える橋本に対し、司会の田原総一郎は煮え切らないと思ったのか「するのか、しないのかはっきりすべきだ」と詰問。「そういう議論がおかしい」と「正論」を吐く橋本でしたが、視聴者の目にはどう映ったことでしょう。
自民党の経済対策が不透明なまま、参院選。自民党の獲得議席は改選126議席中44議席。非改選議席を含めても改選議席に24議席届かず。これは消費税問題・社会党ブームの89年選挙につぐ大惨敗でした。一方民主党は22議席を獲得し参院第2党へ。
小渕政権へ、そして野中広務の時代へ
こうして橋本首相は退陣し総裁選、小渕派領袖(経世会会長)・小渕恵三外相と小泉厚相、そして梶山静六前官房長官が出馬。田中真紀子はこの三人を「凡人・変人・軍人」と評しましたが、(意味はよく分かっても)意図はよくわかりません。いずれにせよ小渕225票、梶山102票、小泉84票で小渕が総裁に就任します。
しかし、ここで目を引くのが梶山の奮闘です。梶山もまた小渕派、経世会でした。しかし、彼は派閥を飛び出し、派閥の論理よりも政策本位の選挙戦を行いました。その結果として彼が超派閥的な支持を集めて102票を集めたことは注目に値します。
しかし梶山はその後体調を崩し、一線を退きます。2000年、閉塞性黄疸のため死去しました。
このような派閥中心政治の動揺が見られる中、小渕政権はスタートします。そして、それほどカリスマ性がなく「冷めたピザ」とまで酷評される小渕を支えていくのが、この選挙で小渕派の中心を務めた経世会の野中広務でした。
こうして、自民党は野中を中心に動く体制になっていきます。彼は官房長官として小渕政権に入閣、「影の総理」とまで言われるようになっていきます。
そして、いまこそ小沢自由党との連立をと、亀井静香は動き始めます。日本の政界は再び連立政権へと歩み始めるのでした。
※「自民党の歴史(11)橋本構造改革の挫折」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。
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