二院制とは? なぜ国会は衆議院・参議院に分かれているの?
二院制とは?
なぜ国会は衆議院・参議院の二院制をとっているのか、考えていきたいと思います。そして、同時に他の先進国などの二院制についても説明していきます。
<目次>
- 二院制……「人民の意思」を2つの議院に分けられるのか?
- 二院制議会を持つ先進国
- 日本が二院制をとる「意義」とは
- 衆議院・参議院の間の選挙制度の違い
- 参議院で「慎重な審議」は実現されているか?
- 世界の二院制議会
- 貴族院型二院制 ~イギリス~
- 連邦型二院制 ~アメリカ、ドイツ~
- 地域代表重視型二院制 ~フランス~
- 特に差異のない二院制 ~イタリア~
- 二院制から一院制に移行した国 ~スウェーデン~
- 日本に二院制は必要あるのか……参議院に独自性を求めるのは難しい
- 参議院選挙の「特殊性」
- 「ねじれ現象」から生まれた新しい形の「密室政治」
- 参議院改革は、どうするべきか?
- 国家の意志決定制度は、主権者である国民が決める!
【実はけっこう、先進国でも多い「一院制」議会の国々】
二院制……「人民の意思」を2つの議院に分けられるのか?
普通、学校の教科書などでは、二院制の意義を説きます。しかし、私は、その前に、このことから考えたいと思います。つまり、「なぜ[参議院]がもう一院としてなければならないのか」。
『社会契約論』で有名な18世紀フランスの啓蒙思想家、ルソーはこう主張しています。主権は分割できない、と。ルソーは人民主権を説いていましたから、ここでいう主権とは、人民の意思のことです。人民の意思が、なぜ分割できるのか。
そう考えると、人民の意思を、2つの議院にわけることの意義がよくわからなくなってきます。はっきりいって、1つの議院で十分なのではないか。そう、考えてしまいますよね。
二院制議会を持つ先進国
そんなことで、他の国はどうなっているのか、調べてみました。とはいっても、人口数千人の国、独裁国家、そんなものまで調べていてはきりがないので、ここでは「先進国クラブ」の異名を持つ、OECD(経済協力開発機構)加盟30か国の議会を調べてみました。(ちなみに、加盟国は……オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシア、アイスランド、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スロバキア、トルコ、イギリス、アメリカ、日本、フィンランド、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、チェコ、ハンガリー、ポーランド、韓国、スロヴァキアです。)
まず、
二院制議会を持つ国:17か国
一院制議会を持つ国:12か国
その他 :1か国(ノルウェー)
ノルウェーは、最初一院として選挙した後、議員の間で上院議員になる人を決めるという変則的な形なので、その他にしました。
けっこう、一院制の国、多いです。
主要国としては、スウェーデン、デンマーク、アイルランド、ニュージーランド。このような民主的国家であっても、一院制でやっていこうと思えば、やっていけているわけです。
日本が二院制をとる「意義」とは
さて、ここで教科書通りに、日本が二院制をとる「意義」について、考えていきましょう。二院制の意義について、日本国憲法ではなにも説明されていません。一般的にはこのような理由からと言われています。
1)国民の多様な意見を反映するため。
2)慎重な審議を行うため。
1)については、憲法が衆議院議員の任期を4年、ただし解散によって任期終了、としているのに対し、参議院議員は任期6年で解散がない、また3年任期がずれていることによって半数ずつ3年おきに改選、というところ(憲法第45・46条)に憲法制定者の意思が反映されていると言われています。
つまり、任期が短い議員で構成される衆議院は、そのとき最も近い民意を反映する。一方、任期が長い議員で構成される参議院は国民の長期的な視点を反映する。ということだろうと思われています。
さらに、衆議院は選挙でそのつど「総とっかえ」するので、連続性に乏しい。一方、参議院は半数ずつの改選ですから、半数はかならず残っているわけで、連続性がある。
このことから、衆議院は短期的な国民の視野から、参議院は長期的な視野からそれぞれ審議にあたることができると考えられています。
(ですから、衆議院選挙は必ず「総選挙」ですが、「参議院総選挙」という言葉は存在しないわけです。気をつけましょう。)
衆議院・参議院の間の選挙制度の違い
さらに、公職選挙法によって、衆議院は全国300小選挙区から選出された議員と、全国11ブロックによる比例代表によって選出された議員から構成されるようになっています。衆議院は、「地域代表」の色合いが濃くなっています。それに対して、参議院は都道府県を単位とした選挙区から選出された議員と、全国一ブロックによる比例代表によって選出された議員から構成されるようになっています。参議院は、「都道府県代表」+「全国代表」の色合いが濃いわけですね。
また、衆議院の被選挙権が25歳以上なのに対し、参議院の場合は30歳以上と、ここでも区別がされています。これは、参議院議員により「人生経験」を求めているのでしょうか。
このように、衆議院と参議院を異なる方法で選ぶことによって、いろいろな人の意見を反映させようというのが、1)理論「国民の多様な意見を反映」というものです。
参議院で「慎重な審議」は実現されているか?
一方、2)「慎重な審議を行うため」のいうのも、参議院がおかれる理由としてよくあげられるものです。どうしても「多数の代表=数の代表」となりやすい衆議院の横暴と暴走を防ぐため、「少数の代表」「理の代表」である参議院が、これを監視する必要があるのだ、ということが、よく説明されています。
しかし、この監視機能が働くためには、参議院が衆議院とは独立したチェック機関である必要があるわけです。
しかし、参議院の現状は、まさによくいわれる「衆議院のカーボンコピー」です。衆議院とほぼ同じ政党で構成され、政党の比率もだいたい一緒。無所属の学識経験者のような「理の代表」と思われる人はほとんどいません。
また、そんな「理の代表」が衆議院の暴走をストップしている、そんな状況も、ほとんど生まれていません。法案のほぼすべては、衆議院の議決とおり参議院で議決されています。
このため、「参議院改革」あるいは「参議院無用論」などが一部で取りざたされているのです。
【「二院制」といってもいろいろある、世界の二院制議会】
世界の二院制議会
二院制、といっても、大きくわけて3つにわけることができるようです。○貴族院型二院制
○連邦型・地域代表重視型二院制
○特に差異のない二院制
貴族院型二院制 ~イギリス~
貴族院型二院制の代表は、イギリスです。イギリスは、上院議員は選挙では選ばれません。世襲貴族、一大貴族(学識経験者など)、宗教関係者、法律貴族(法律家)で構成されていて、内閣が決定します(任命は国王)。しかし、実際には「下院の優越」が確立していて、国民の代表である下院がほぼすべてのことを決定できるようになっています。上院は、もはや形式的な存在に過ぎなくなっています。もちろん、首相は下院の第一党の党首がなり、内閣不信任を突き付けられるのも、下院だけです。
というわけで、イギリスの場合、実質的には一院制に近い、と考えた方が良さそうです。
連邦型二院制 ~アメリカ、ドイツ~
多いのが、連邦型二院制です。アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、それからOECDには入っていませんがロシアなどです。これらの国々は州(ロシアの場合は連邦内共和国など)の力が強く、中央の連邦議会に、代表を送り込む必要があります。そのため、州の代表として、上院がおかれているのですね。
アメリカの上院は、州の人口に関わらず2名ずつ州民から選出されます(下院は人口比例)。アメリカは州の権限が大きいので、上院には、(1)条約承認権、(2)大統領の長官、最高裁判事任命に対する同意権、が与えられています。
また、ドイツの上院に当たる「連邦参議院」は、選挙はなしです。州が、人口に応じた人数で、そのつど代表を送り込みます。この人たちは、州の意向の通りに動かなくてはなりません。ほんとうに「州の代表」であって、連邦参議院はさながら国連総会のような感じです。
地域代表重視型二院制 ~フランス~
一方、フランスは連邦制の国ではありませんが、ちょっと特殊です。下院(国民議会)、これは国民の選挙で選ばれます。しかし、上院(元老院)は、地方の代表が決定します。
上院議員の選挙権を持っているのは、その地域(県)から選出された下院議員、県会議員、市町村会の代表たちです(彼らを「選挙人団」といいます)。市町村会代表が95%、選挙人の人口比0.25%。
基本的には下院の優越が定められているのですが、しばしば、特に下院で左派勢力が優勢のときは、その決定を阻んできました。上院は、性格上、どうしても右派に有利になってしまうようです。
特に差異のない二院制 ~イタリア~
日本と同じように、特に上院・下院の明確な区別がないのがイタリアです。イタリアは、上下両院同時に選挙を行ないます。任期も一緒です。選挙制度も、両院とも小選挙区比例代表並立制をとっています。違いは、選挙資格ですね(上院;選挙権25歳以上、被選挙権40歳以上。下院;選挙権18歳以上、被選挙権25歳以上。)
また、大統領経験者は、自動的に終身上院議員になります。その他、いわゆる「功労者」も、終身上院議員になることがあります。しかし、その数はわずかです。
とにかく、あまり選挙制度が変わらず、しかも同時に選挙を行なうので、だいたい両院の政党構成比率は一緒ですね。
こういう国では、日本のように、しばしば「二院制」の意義が問われることになります。
二院制から一院制に移行した国 ~スウェーデン~
で、実際に二院制をやめて、一院制にしたのが、デンマークやスウェーデンなのです。スウェーデンは、1970年に二院制をやめて、任期3年の一院制にしました。しかも、国政選挙と地方選挙が同じ日に投票されるようにしました。
この理由としては、まず、二院制の意義がもはやない、と判断したことがあげられるでしょう。貴族制もなくなり、連邦制でもない。だったら、二院あるのは意味がない、ということです。
もう1つは、これはいかにもスウェーデン的というか、「合理的」だから、というものです。選挙の運営にお金がかからない。しかも地方選挙も一緒にやるので、ますますコストダウン。
もちろん、国会議員も30人減らして、コストダウン。さらに、両院で審議しないので、その分、議事運営費(空調やら、証明やら、警備費やら)も減って、コストダウン。
べらぼうな国民の高負担(なにせ消費税25%ですからね)で高福祉を実現しているスウェーデン。国民にそれだけの負担をしいている以上、国が漫然と高いコストを払っているのは許されない、というわけです。
【参議院改革が先か、それとも一院制にしてしまうべきか?】
日本に二院制は必要あるのか……参議院に独自性を求めるのは難しい
ふたたび、日本の二院制について考えます。確かに、日本の二院制、とくに参議院の存在意義はよくわかりません。政党政治が進んでいる以上、参議院と衆議院を合同させても、特に問題はないかもしれません。政党が衆議院・参議院に分かれて判断することを求めること自体、無理があるともいえるでしょう。
つまり、たとえば自民党と公明党の連合が衆参で過半数を占めている以上、衆議院と参議院が異なった議決をすることは普通はありえない。あるとすれば、政党の意思に背いて行動をする「造反議員」の行動のためでしょう。
しかし、それは「この政党はこういうことをするだろう」と考えて投票する有権者への裏切りにほかありません。政党政治においては、まず第一に有権者はどの党に投票しようか、これを基準にするわけですから、その政党に背く議員がいること自体、問題です。
そのことを考えると、ますます、衆参を合同させたほうがいいようにも思えてきます。
参議院選挙の「特殊性」
一方、参議院選挙は、1980年代後半から(消費税問題をきっかけに)、衆議院総選挙とは異なった様相を見せてくるようになりました。つまり、参議院選挙では、しばしば与党(自民党)が大敗し、野党が過半数を占める、という「ねじれ現象」がおきてきました。
なぜ、このようなことがおこるのか。大きな原因として、衆議院と参議院が別々に行われるということがあげられるでしょう(同一日選挙もありましたが、戦後2回しかありません)。
つまり、衆議院総選挙は政権を決める選挙であって、これには国民は慎重になる。だから、自民党政権をついつい選んでしまう。一方、参議院選挙は、しょせん大敗の責任を取って首相が辞めることはあっても、政権党は変わらない。だから気楽に「怒り」をぶつける。
そういった意味でどうも、参議院は国民の「ガス抜き」的存在になっているのではないか、ということがいわれます。
「ねじれ現象」から生まれた新しい形の「密室政治」
このようなことから生まれた「ねじれ現象」の解消として誕生したのが、自民党と公明党の連合でした。これにより、自民党連合は衆参で過半数を回復し、1990年代後半から安定して政権を維持してきています。この過程で台頭してきたのが、いわゆる「参議院自民党」組です。参議院は時に自民党政治のガス抜きにされ、参議院組は犠牲を払ってきた。そして、公明党との連合を支えてきたのもわれわれだ。だから、われわれは発言力を持つべきだ、ということです。
それを象徴していたのが、森政権発足時の「密室会議」のメンバーでした。5人中2人が、参議院議員でした。1980年代なら、考えられなかったことです。
今も、小泉政権を支えているといわれる自民党の最実力者のひとり、青木幹夫参議院幹事長はもちろん参議院議員ですし、自民党内の参議院組の発言力はここ10年で飛躍的に伸びました。
しかし、とはいえ、参議院議員とはいえ自民党は自民党。自民党の意思に反することはできません。しかし、「こっちの方を向かないのなら協力しないよ」という圧力をかけることはできます。しかも、それは往々にして、密室の場で。
こうして、国会の「ねじれ現象」は、期待された「参議院の独自性」ではなく、新しい形の「密室政治」を産んだだけ、に終わってしまっているようです。今の時点では。
参議院改革は、どうするべきか?
やはり、真の意味で参議院が独自性を発揮するには、(1)参議院が政党化しないようにするか、もしくは(2)参議院に新たな権限を加えるしかないように思えます。(1)としてよくいわれるのが、「貴族院」への復帰です。つまり、学識経験者を内閣が任命し、彼らが党派に関係なく、衆議院の議事を見守り、ときにチェック機能を働かせる。このようなことは、小沢一郎氏なども主張していることです。
ドイツのように、都道府県知事が任意に代表を派遣する「地方院」にしてしまうのも手かもしれません。「地方の時代」を実現するのであれば、知事が間接的に国の政治に参加できるしくみをつくるのは、有効な手段といえるかもしれません。
(2)としては、条約承認権を参議院に移す、もしくは独占させる。これが一番現実的かな、と思われます。任期が長く、連続性の高い議院である参議院のみが、条約を承認する。
こうして、参議院を単なる第2院から「外交の院」とすることで、投票のときの国民の意識も、内側の国民利益だけでなく、国際政治に及ぶことになるわけで、これはこれでいい案かもしれません。
国家の意志決定制度は、主権者である国民が決める!
もちろん、「一院制にする」これも案です。「第一院の決定を阻害する第二院は、弊害しかもたらさない」とよくいわれることです。最初にいったように、ルソーは、人民の意思は分割されない、といいました。人民の意思を反映する機関は、1つでいいのかもしれません。どうも、参議院改革の話になると、いきおい、参議院議員の「既得権益」と衝突してしまい、なかなか話が進展しません。今、憲法論議が盛んですが、どうもその既得権益を持っている国会議員の中の議論だけが突出し、国民の意思がなかなか現れてきません。
国家の意志決定制度は、主権者である国民が決めることです。「既得権益」にしばられてしまう国会議員のペースに巻き込まれないよう、われわれもしっかり考えていきたいところですね。
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