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強制スプレー事件で考える平等権(3ページ目)

ある県立の生徒だった方が、在学中、先天的に髪の毛が栗色だったにもかかわらず強制的に黒色スプレーを噴射されたという差別的行為の賠償を求める裁判を起こしました。これを機会に、平等権について考えます。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【「法の下の平等」の基本的な意味と保障の範囲】
2ページ目 【平等権規定が保障している平等はどこまでの平等なのか?】
3ページ目 【校則は憲法違反?/私立高校の生徒は訴えられる?】

【校則は憲法違反?/私立高校の生徒は訴えられる?】

「校則」は一方的なものであっても原則的には合憲

基本的に、憲法上の自由権を奪う「校則」があっても、これは合憲と解釈されています。

一番有名なのは「昭和女子大事件」で、大学の学則にあたる「生活要録」の合憲性が問われたのですが、最高裁は「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、……公共的な施設であり、……必要な事項を学則等により一方的に制定し、……学制を規律する包括的権能を有するもの」*であると判決で示しています。

しかし、その内容については、「無制限なものではありえず、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ」*認められるとしています。

ですから、これは通常ほかの教育機関にもあてはまるもので、校則を一方的に作ることは憲法違反ではないわけです。私の高校にあった規則ですが、「冬山登山は許可をもらうこと」。もし何かあって、学校が知らないじゃすまされませんからね。

今回の事件の場合、「髪の染色は禁止」は当然認められるものでしょう。そんなことより勉強しなさい、これは適切な指導です。

しかし、「必ず(染めてでも)黒くしなくてはならない」であれば、これはどうでしょう。教育指導に必要かどうかのみならず、先天的に黒髪でない生徒への差別を助長することもありうるのではないでしょうか。

私立学校の生徒たちは訴えられないのか?

さて、今回の事件は県立高校が舞台でしたが、これが私立高校の場合、どうでしょう。

憲法の人権規定のほとんどは、あくまで[国家または地方政府⇔私人]との関係での保障です(労働者の団結権、団体交渉権などの保障は別の側面もありますが)。[私人⇔私人(法人も含む)]関係では、憲法は直接適用されません。これも、最高裁の判決で確立されています。

しかし、それでは、たとえば私人である会社は、従業員の男女差別をおもいっきりやっていいことになる。それはおかしいですよね。日本国憲法で定める基本的人権というのは、「人間であることにより当然に有するとされる権利」(芦部信喜著『憲法』岩波書店より引用)ですからね。

そこで、最高裁は「間接適用説」をとって、これを保護します。つまり、私人による基本的人権侵害があった場合、その人は憲法ではなく、民法に基づいて訴えられ、保護されるべきであるという考えです。

「すなわち、私的支配関係においては……場合によっては、私的自治に対する一般制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規程等の適切な運用によって……適切な調整を図る方途も存するのである」*[「三菱樹脂事件」最高裁判決より]

では、民法の規定を見てみましょう

民法
第1条1項 私権ハ公共ノ福祉ニ遵フ
2項 権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス
3項 権利ノ濫用ハ之ヲ許サス

第90条 公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス

第709条 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス 適用除外・失火ノ責任


この事件の場合、無理やり髪にスプレーを噴射されたことは、おもに709条で定められた「他人ノ権利ヲ侵害」した、いわゆる「不法行為」にあたるとして、訴えることができると思われます。

(*:ここで引用した判決文の直接の引用元:阿部照哉・池田政章編『新版 憲法判例〔増補版〕』有斐閣双書)

▼こちらもご参照下さい。
憲法と人権の話、応用編。 - [よくわかる政治]All About

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