(2004.07.19)

このあいだ、政治の超基礎講座(3)で人権について説明しましたが、今日はその応用編です。憲法の人権規定は個人と企業の関係にも適用されるのか? 憲法に規定されていないけど重要な権利はどうなる?

1ページ目 【憲法は私人と私人、つまり個人と企業との間などには適用されない!】
2ページ目 【私人と私人の間に憲法を「間接適用」するというウラ技があった!】
3ページ目 【憲法に規定されていない「新しい人権」はどう保障しているのか?】

【憲法は私人と私人、つまり個人と企業との間などには適用されない!】

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憲法の人権規定は私人と私人の間で適用されるか

さあ、人権について、日本国憲法を中心に、ちょっと細かなことを解説していきましょう。

まず1点。私たちは憲法で人権を保障されている、とはいえ、実際にはどうでしょう。われわれは、労働者であれば上司の命令を聞かなくてはなりません。仕事をしろ、といわれたら、「私には集会の自由が保障されている」といっても、聞いてもらえないでしょう。

失業者であれば、就職活動をして、採用を拒否されて、「法の下の平等は保障されている、希望するものはみんな就職しろ」とかいっても、聞いてもらえないでしょう。

憲法の人権規定は、国家には主張できても、私人(法人格を持つ企業含む)には、主張できないのでしょうか。

法には、大きく、公法と私法にわけるという概念があります。つまり、

公法:国家の内部、または国家と国民の関係を規定した法
私法:私人と私人の関係を規定した法(私人には法人格を持つ企業も入るわけです)

で、公法の代表格が、憲法。ほか、地方自治法とか、国家公務員法とか、こういうのが公法になります。

私法の代表格は民法。私人どうしの契約や、家族の財産の相続、などについて規定しています。また、企業のことについて規定した商法などもこれに入るでしょう。

つまり、憲法は公法。国家と国民との間の契約。国家には「集会の自由があるからこの集会に出る」とはいえても、私人である企業の上司に「お前仕事さぼるのか」といわれれば集会に参加できない。憲法は私人と私人の間の関係を規定したものではないからです。

三菱樹脂事件判決

これには批判もないことはないのですが、あまりに国家が私人のことをあれこれ規定してしまうと、自由経済の原則である「私的自治の法則」=私人の活動は基本的に自由にさせる、というものを壊してしまう危険性もあるわけです。

過去、憲法界では有名な「三菱樹脂事件」というのがありました。ある人が大学卒業して、4月にとりあえず仮採用になって、6月になっていざ本採用されるかと思いきや、この人の学生運動の履歴がばれて、本採用されなかった。

それで、この人は「この会社の行為は、憲法19条が規定する『思想・良心の自由』に反している。かつ、信条によって差別してはならないとする憲法14条にも反している。内面的な思想で本採用するかどうか判定するのは非合理な差別で、まちがっている」として、裁判を起こしたのですね。

日本国憲法 第19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。


最高裁判所は、1973年、この訴えを却下し、こういう判決をくだしました。

「(憲法19条・14条の規定は)同法(注:憲法のこと)第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的自由と平等を保障する目的に出たもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するもので、私人相互の関係を直接規律するものではない。
(カッコ内、注、下線は筆者)

つまり、憲法は私人間の関係については直接関係しませんよ、ということなわけですね。私人(企業)がだれを採用しようがしまいが、それは国が知ったこっちゃない、ということなわけです。

憲法規定が私人間に適用されなくて、われわれの人権はどうなる

でも、憲法の規定がぜんぜん私人間に適用されなかったら、われわれ困っちゃいますよね。

食うためには企業のいうこと聞いて、就業規則に従わなくてはなりません。就業規則がむちゃくちゃでも。でも、それじゃあ国民は企業の言いなりで、ぜんぜん人権が確保されないですよね。

しかし、抜け道はあります。それは次ページでお話しましょう。