1ページ目 【憲法は私人と私人、つまり個人と企業との間などには適用されない!】
2ページ目 【私人と私人の間に憲法を「間接適用」するというウラ技があった!】
3ページ目 【憲法に規定されていない「新しい人権」はどう保障しているのか?】

【私人と私人の間に憲法を「間接適用」するというウラ技があった!】

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民法を使って憲法理念を「間接適用」

憲法の規定を私人間に「直接適用」できなくても、間接的に適用する法理論があります。それが「間接適用論」です。

民法90条を見てみましょう。ちょっと古い仮名遣いですが・・・

民法 第90条
公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス


「法律行為」とは、売買契約や借金の契約、働くための契約就業規則の作成であったりすうものです。

で、民法90条では、公の秩序や善良風俗に反する契約は無効だ、と定めているわけです。

ギャンブルのための借金は返さなくていい、とよくいわれるのはこれが根拠になっているのですね。ギャンブルは法律違反であり、公の秩序に反している。だから、マージャンで相手が負けたから100万貸した、というのは無効で、負けた相手は100万返さなくてもいいわけです。法学では有名な話。

この「公ノ秩序」には、憲法の人権規定を守れ、というのは入っていないのでしょうか。そんなことはないですよね。憲法の人権規定は、明らかな「公ノ秩序」です。国の最高法規で定めたことなのですから。

日産自動車事件判決

このことは、さっきのページで解説した三菱樹脂事件の判決でも示唆されていました。そして、これを具体的に適用したのが、日産自動車事件判決でした。

ある人の会社には、定年年齢を男子60歳、女子55歳、という就業規則があった。それで、定年退職を命じられた女子社員が出てきた。彼女らは、これは民法90条に違反している。憲法秩序では法の下の平等が規定されているのだから、この規則は「公ノ秩序」に反している、というわけです。

日本国憲法 第14条1項
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。
(下線は筆者)

地裁、高裁と原告が勝利し、最高裁までいった裁判は、1981年、原告勝利で終わりました。あの定年年齢差別をした就業規則が民法90条に違反していることは、はっきり認めました。これがそのときの最高裁判決です。

「上告会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効であると解するのが相当である。(下線は筆者)

 

こうして、民法を使った憲法人権規定の間接適用論は定着し、その後も女子の昇進差別や賃金格差などを定めた就業規定は無効であるという判断がつぎつぎとくだるようになりました。

最近では、民法709条で人権を守ることも、憲法の間接適用であると解されるようになってきています。

民法 第709条
故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス


これは法学では「不法行為」といわれているやつで、他人の権利を侵害したらそれは不法行為であって、かならず賠償しなくてはならない、というものです。これを利用して、たとえばセクハラ裁判で勝利する例などが増えてきました。

これもまた、女性の人権を民法を使って間接的に守っているわけですね。

そうはいっても、やはり憲法上保障されてほしい人権もある

しかしながら、たとえばプライバシーの権利や、健康な環境を守る権利など、憲法でしっかり保障されてほしい権利もある。間接適用では、やや不安だ。

しかし、プライバシー権などは憲法に規定されていません。50数年も前に、プライバシ-問題がこれほど深刻になるとはだれも予想していなかったからです。

しかし、プライバシー権を憲法上の権利として認める判決は事実上定着しています。それはどういうことなのか、次のページで解説していきます。