北欧は季節によって、一日のほとんどが暗い世界になります。そのため、太陽の光をとても大切に考えると聞きました。そして、太陽の光だけではなく、「あかり」に対する繊細な思いは、街のどこでも感じることが出来ます。厳しい自然環境が照明を考える知恵の源となり、文化となっているように思えるのです。夜、ヘルシンキの街を歩くと、建物のライティングがとても美しく感じます。代表的なのがヘルシンキ中央駅。正面入口の両脇にある彫像に照明器具が取り込まれています。人物をかたどった彫像が暖かな光を抱くようなデザインはとても印象的です。もちろん、レストランでも、ホテルでも素敵な「あかり」はたくさんありました。それらの「あかり」の使い方は、日本人には全体的に暗く感じるかもしれません。でも、なんともいえない柔らかさがあると私には思えるのです。
ヨーロッパでは、古い建物を利用して美術館や博物館になっている例をよく見かけますよね。ヘルシンキ建築博物館もそのひとつ。著名な建築家の資料や模型を展示しているスペースですが、照明器具は事務的なデザインのものではなく、普通の住まいにあるようなペンダント。高い天井からスッとおりてくるコードが美しく、新鮮に感じます。
また、フィンランドの著名な建築家であり、デザイナーでもあるアルヴァ・アールト。そのアールトのアトリエ(設計事務所)は、彼のデザインを肌で感じることができる貴重な場所。その中にある所員の食堂の天井には生成りの布がゆとりをもたせてかけてあり、それが照明のシェードになっています。光源を直接見せず、暖かな光の元で食事ができるような工夫です。作業場の照明器具も、空間のなかでホッとする光のかたまりを生み出すような雰囲気でした。もちろんアールトのデザインです。
海外のホテルの照明プランなども参考になります。ベッドサイドのスタンドやダウンライト、壁を照らす光によって生まれる穏やかな陰影は、くつろぎ感を生み出してくれます。写真のように、部屋番号が照明を兼ねているのもセンスが感じられます。真鍮製と思われる箱からこぼれる光は、天井の凹凸にも反射して、美しい影を作っています。照明器具のデザインだけでなく、それが配される空間との関係が大事だということを教えてくれます。
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