かつては「遺産相続をめぐる骨肉の争い」のような筋書きのテレビドラマなどで、しばしば「権利証」(権利証書)が小道具として使われていました。何だか大層な書類のようですが、ご自身や家族が不動産を所有していた人でないと、実際にご覧になったことはないかもしれません。
2005年に施行された新不動産登記法では、この権利証制度が廃止され、その後の法務局における登記事務のオンライン化によって順次「登記識別情報」に取って代わられています。
現在、すべての法務局で「登記識別情報」への切り替えは完了していますが、権利証が廃止される前に登記された不動産では、まだこれから先も権利証が重要な書類となります。これがどのような書類なのか、そのあらましを確認しておくことにしましょう。
不動産の権利証の正体
少し古い話題ですが、2003年のある日、新聞に「権利証の文字が消えてしまった」という笑うに笑えない記事が載っていました。いったいなぜ、このようなことが起きたのでしょうか。権利証とは、不動産の登記の際に登記申請書と同じ内容のもの(副本)を法務局に提出して、登記が完了したときに「登記済」の印を押して還付してもらったもの(登記済証)のことです。
改正前の不動産登記法による規定では、登記原因証書(売買契約書、売渡証書など)または申請書副本を添付書類として提出し、そのどちらか提出したものが還付されて登記済証(権利証)となったのですが、実際には申請書副本による場合が大半でした。
そして、この副本については用紙などの規定がなかったため、上記の「権利証の文字が消えた」という事例では、権利証となる副本にワープロ用の感熱紙を用いたのが原因だったようです。
当時のワープロ専用機で使っていた感熱紙だと、数年で変色したり文字が薄くなったりしたことをご記憶の方も多いでしょう。
不動産にとって重要な書類でありながら、その保護については十分でなかった面も否めません。また、権利証自体は登記手続きが終わったことの証書であり、その不動産の所有者が誰かということの「証明書」ではない点についても留意が必要です。
登記識別情報とは?
2005年3月7日に新不動産登記法が施行され、その後にシステムが整備された法務局から順次、権利証制度から登記識別情報制度への切り替えが実施されました。登記識別情報とは、アラビア数字、アルファベットなどの組み合わせで作成された12文字の情報です。登記手続きのためのパスワードだと考えれば分かりやすいでしょう。
登記が完了すると、法務局から「登記識別情報通知」と記載されたA4の紙が発行され、12文字の部分には目隠しシールが貼られています。
また、登記識別情報とは別に、登記が完了したときには法務局から「登記完了証」が交付されますが、これは登記が終わったことの通知に過ぎず、従来の登記済証(権利証)に代わるものではありません。
権利証や登記識別情報を紛失したときは?
不動産の売却による所有権移転や抵当権の設定など、権利に関する登記を申請するときには、権利証の提出、または登記識別情報の提供をしなければなりません。ところが、権利証を紛失、焼失したり、登記識別情報を失念したりしても再発行はされませんから、それに代わる手続きが必要となります。
以前の規定では、権利証を紛失などした後で新たな登記をするときは「保証書」が必要でした。「保証書」とは、同一の法務局管内で登記した不動産を所有する2名以上の成年者が、その(権利証を紛失した)所有者が間違いないことを保証した書面で、たいへん面倒な手続きです。
新不動産登記法ではこれらの手続きも改められ、権利証の提出や登記識別情報の提供ができない場合には、事前通知制度、司法書士・土地家屋調査士・弁護士など「資格者代理人」による本人確認情報の提供、公証人による認証のいずれかでよいことになっています。
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