中古マンションが現行の容積率を超えている場合に考えられる主な原因を、違反建築物のケースも含めて挙げてみましょう。
【当初から容積率の制限に違反した建築物だった】
ただし、当初の建設段階から違法だったマンションはそれほど多くないものと考えられ、実際に多いケースは次のようなものでしょう。
【竣工直後に違法な増築などがされた】
マンションに限れば最近はあまり聞かないものの、昭和50年代頃までは比較的多くみられ、平成の時代になってもいくつかの事例があるようです。
当初は1階部分の屋内駐車場として容積率の計算対象外となっていた部分が、いつの間にか居宅や事務所、店舗などに改装され、それが平然と分譲されていたこともあります。
某ホテルチェーンでは、つい最近まで同様のことをやっていたようで、ニュースにもなっていましたが……。
【建設後に容積率の指定数値が引き下げられた】
どちらかといえば改正などによって指定容積率が引き上げられたり緩和されたりする傾向にあり、引き下げに該当するケースはそれほど多くないでしょう。
【容積率の規定が導入される前に建設された】
古いマンションではこれに該当するものが意外と多くあります。容積率の規定が全国的に適用されたのは昭和45年頃のことであり、それ以前は住居系の地域で20m、その他の地域で31mという「絶対高さ制限」が適用されていました。
たとえば、その当時に商業地で建てられたマンションには10~11階建て程度のものがあり、その後に指定された容積率が400%だったとすれば、これを建替えようとしてもせいぜい5~6階建て程度のものしか建てられないことになります。
なお、容積率制限については昭和38年にその考え方が導入されてから翌年以降に順次、適用地域が増やされ、昭和45年6月1日に「全面採用」されたようですが、その間の運用がどうなっていたのか正確には分かりません。50年ほど前のことですのでご容赦ください。
【道路拡幅などにより、建設後に敷地の一部が収用された】
これも比較的多く見られるケースです。都市計画道路の拡幅や新設が予定されていても、それが事業化されるまで(計画決定の段階)は敷地面積に算入できるため、容積率をフルに使って道路計画にかからない部分の敷地にマンションを建てることが少なくありません。
近年も、東京都心部に完成したばかりのタワーマンションでこの問題が指摘されていました。
【建設後に敷地の一部が第三者へ売却された】
建築確認のときには容積率の計算対象とした敷地の一部を分譲の対象から外し、マンション完成後に事業主から第三者へ売却してしまったようなケースも、昭和50年代頃までのマンションでときおりみられます。
また、容積率稼ぎのため建築確認のときには、事業主が所有する敷地と第三者が所有する隣接地とを合算(借地扱い)していたと思われるケースもあります。そのまま隣接地を借り続けていれば問題はないのですが……。
マンションが老朽化して建替えの必要に迫られたとき、容積率に余裕があれば部屋数を増やし、それを第三者に分譲して事業資金に充てるなどの手法が可能となります。実際にこれまで建替えに成功したマンションのほとんどは、容積率に恵まれたケースだったようです。
逆に容積率が不足するマンションの建替えでは、資金の調達ができたとしても各部屋をそれぞれ一定割合ずつ狭くしなければならないことになり、居住者間の合意を得ること自体が非常に困難でしょう。
東京都ではマンションの建替えに対する容積率の割増し制度など独自の支援策も講じていて、国や他の自治体でも既存不適格マンションに対する支援措置や救済措置などが次第に整備されていくものと考えられます。
しかし、容積率の大幅な割増しは難しいでしょうし、住民には責任がないとはいえ、悪質な違反建築物の場合でも救済されるのかどうか分かりません。
建設されてから相当な年数を経ていて、建設当時の資料が保存されていないマンションでは、既存不適格建築物なのか違反建築物なのか、その判別すら難しいケースも考えられます。
いずれにしても現時点では、既存不適格の原因が何であれ「将来の建替えのときには同じ規模のものが建てられない」ということは、現実に「建替えることはできない」(法的に建替えができないのではなく、住民による建替えの決議ができない)こととほとんど同じ意味として考えるべきケースが大半です。
そのリスクに見合った物件(価格)なのかどうか、慎重な判断が欠かせません。
なお、一概にはいえませんが、現行の容積率を超えている物件の中で考えたとき、一戸建て住宅では既存不適格建築物よりも違反建築物のほうが多く、マンションでは逆に既存不適格建築物のほうが多い傾向にあるようです。
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