この記事は2009年10月時点のものです。その後、個人の住宅ローンも対象に含めた「中小企業金融円滑化法」が2009年12月4日に施行され、2013年3月31日まで実施されることになっています(当初は2011年3月31日までの予定でしたが、その後も延長されています)。
住宅ローンの返済猶予で助かる……とは限らない!? |
その後ややトーンダウンした感もありますが、10月9日に示された制度案の骨格では、借り手の希望に応じて「貸付条件の変更等」を金融機関が実施するための「努力義務」や「努力目標」とし、対象を個人の住宅ローンに広げるかどうかは「確定していない」(大塚金融担当副大臣:日本経済新聞報道より)ということです。
現在の住宅ローンの返済が苦しく、これが制度化されることをひそかに期待している人がいるかもしれませんが、もしこれが実施されたときに「住宅ローンの返済猶予を受けたらどうなるのか?」を考えてみることにしましょう。
元金の返済猶予を受け、金利を支払い続ける場合
制度の骨格案では、最長3年の返済猶予期間が想定されていますから、ここでは3年間の返済猶予でどうなるのかを試算してみます。※ 計算方法の違いにより、1円単位の端数は異なる場合があります。 |
〔設例1〕 当初借入れ 4,000万円 金利 4.00% 元利均等 30年返済 ボーナス返済なし 毎月の返済額 190,966円 36か月(3年)の返済後、37か月めから3年間の返済猶予を受ける (元金のみ返済猶予) 完済までの返済期間を3年延長(返済再開後、27年返済) |
設例1のケースでは、36か月めの返済を終えた時点で元金は37,799,494円が残っています。この元金残高に対する1か月の金利は125,998円で、元金の返済猶予を受けたうえで金利を支払い続ける場合には、この125,998円が毎月の負担額となります。
125,998円×36か月(返済猶予期間)=4,535,928円
つまり、このケースでは元金がまったく減らないまま、4,535,928円がまるまる負担増になるほか、金融機関から保証料の追加や増額などを要求されることも考えられるでしょう。
住宅ローンを変動金利で借りている場合、金利が現在の水準(2.475%)のままであれば、もう少し負担が軽くなりますが、返済猶予期間中に金利が上昇すれば、そのぶん負担額が大きくなるリスクを抱えることにもなりかねません。
また、当初の一定期間が固定金利タイプの住宅ローンでは、返済猶予期間中に固定期間が満了することで、負担が大きく変わることもあるでしょう。
〔設例2〕 当初借入れ 4,000万円 金利 2.80% (マイナス1.20%の金利優遇適用後) 元利均等 30年返済 ボーナス返済なし 毎月の返済額 164,358円 36か月(3年)の返済後、37か月めから3年間の返済猶予を受ける (元金のみ返済猶予) 完済までの返済期間を3年延長(返済再開後、27年返済) |
設例2は、上記の設例1と同様の借入れで金利優遇の適用を受けている場合です。2007年頃から金利優遇の適用幅は拡大傾向にありますが、これはあくまでも優良顧客に対するもの。返済猶予を申し出た顧客に対して、金融機関がそのまま金利優遇を続けることは考えにくいでしょう。
設例2のケースでは、36か月めの返済を終えた時点で元金は37,335,890円が残っています。この元金残高に対する1か月の金利は、金利優遇がなくなったとして4.00%で計算すると124,450円で、元金の返済猶予を受けたうえで金利を支払い続ける場合には、この124,450円が毎月の負担額となります。それまでの負担額からは4万円ほどしか下がりません。
124,450円×36か月(返済猶予期間)=4,480,200円
この金利の負担増だけでなく、さらに返済再開後における毎月の返済額の増加も考えなくてはなりません。適用金利が2.80%から4.00%へ上昇することにより、毎月の返済額は当初の164,358円から188,624円へと24,000円あまり増えます。
その結果、住宅ローンの総支払い額は当初の予定よりも1,234万円あまりのアップに。仮に返済猶予期間が数か月だけだったとしても大幅なアップは免れません。変動金利や一定期間固定金利タイプの住宅ローンでは、さらに負担の増加幅が大きくなる可能性もあるでしょう。
返済猶予を受けている間に、大幅な年収アップを実現できれば問題はありませんが…。
元金と金利のどちらも返済猶予を受ける場合
元金と金利の両方について返済猶予を受ける場合も、基本的な考えかたは上記の設例1および設例2のときと同じで、返済猶予期間中に相当する金利が後払いとなります。住宅ローンの返済再開後に「たまった金利を一括で支払え」ということは考えにくく、積み上がった金利分を分割していくことになるでしょう。通常の金利の場合も、金利優遇を受けている場合も、返済再開後の返済額アップは避けられません。
返済猶予期間中の負担額がゼロになることで、生活の再建が図りやすいというメリットはあるでしょうが、会社の業績が大幅に改善したり、転職によって年収が大幅にアップしたりしなければ、単に問題の先送りにしかならないほか、さらに深刻な事態にも陥りかねませんから、返済猶予を安易に考えず慎重に検討することが必要です。
≪金融機関の融資姿勢に変化も…次ページへ≫