住宅というより住むための「装置」　手塚貴晴＋由比さんの大窓の

大窓が機械音とともに消えていく

　ガラスの大窓が静かに下がり始め…　　　　やがて完全に開放される

手塚貴晴＋由比さんの手塚建築研究所が横浜に建てた「大窓の家」のオープンハウスに行ってきました。横浜駅から徒歩20分、少し遠いですが、なんたって横浜ですからどこに行くにも至便な場所と言えます。しかもその真ん前は広々とした児童公園。得がたいロケーションと言えそうです。

前面道路からはこんなふうに見える

行ってみるとビックリ！ ちょうど２階の大窓がゴンゴンと機械音を響かせながら１階へと下がりつつあるではないですか。ようは１階と２階の開口部の幅がまったく同じ。この家は大窓が機械仕掛けで上下する「マジックボックス」のような建築物だということですね。
単純にして明快。建築をむずかしく考えず、いや突き詰めて考え抜いた結果、こんな形もあるのではという結論にたどり着いた住宅ということなのでしょう。

枝葉をそぎ落とした究極の間取り

よけいな装飾をそぎ落とした
シンプルさが美しい それにしても、間取りというものを超越しています。簡単に言えば、１階と２階があって、１階には寝室とバスルーム、２階は大きなリビング＋キッチンのみという構成。こんなシンプルなものなら素人でも考えつきそうな気がしますが、じっさいに実行するにはかなりの勇気が要ります。こんな単純な空間構成で、はたして日々の正常な生活が実現できるのでしょうか？

しかしながらよく考えてみると、他に必要なものって何なんだろう？子ども部屋（子どもがいなければ意味はない）、予備室（お客を泊めることを前提としなければよい）、和室（あっても使わないことが多い）、書斎（リビングが書斎を兼ねればよい）----となると、これだけでも都市生活者のシンプルライフは十分成り立つということになります。

公園の風景を独り占め

階段の向こう側には大窓が“収納”されている

すっぽり収まった大窓、内と外との境界部

１階は、玄関から突き当たって階段室と、寝室への廊下へと分かれます。この廊下の途中にバスルームがあり、その奥が寝室になっています。ここには数少ない収納と呼べるものがありますが、他には何もなく、ただの空間が広がっています。

２階は、南の公園に面した大窓と北側に設えられたキッチンがあるだけで、他にはそっけないぐらい何もありません。キッチンの後ろには食器等の収納があり、西側の壁には棚が付けられていますが、まるでどこかのギャラリーか画家のアトリエにでも来たような感覚になります。

どんなテーブルを置いても、それが部屋のシンボルになりそう

丸見えと言えば丸見えだが、なぜかこちらに優越感がある

すごいのは、このガラスの大窓が下に降りてしまうと、公園に面して何も視覚を遮るものがないこと。町の風景を独り占めです。これって、公園側からも中の生活空間が丸見えということなのですが、最初からそうしたことが気になる人はここには住めないということになるわけです。しかし、覗かれるのはこちらなのに、なぜか優越感があるのはどうしたわけでしょうね？

白とステンレスの無機質な美しさ 究極の住宅は「住むための装置だ」という手塚さんのメッセージが聞こえてきそうな「大窓の家」。建て主さんの生活スタイルをちょっと覗いてみたい気持ちになりますね。


■設　計：手塚建築研究所／手塚貴晴＋手塚由比
　　　　　担当／鍋島千恵、上條大輔
　　　　　http://www.tezuka-arch.com/japanese/
　　　　　池田昌弘建築研究所／池田昌弘
　　　　　担当／大野博史、鈴木崇、角館政英
　　　　　光環境計画／角館政英
　　　　　担当／内藤真理子
　　　　　http://www.bonbori.com/j_t.htm
■施　工：イソダ　担当／磯田武夫、兼田隆康

●構　造　：木造２階建て
●建築面積：47.80ｍ2
●延床面積：93.99ｍ2

手塚さんのその他の作品は↓
柱のない開放空間
手塚貴晴＋由比のメガホンハウス