建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

東京建築散歩(2ページ目)

大阪の建築家のみなさんとともに、東雲キャナルコート、表参道建築ストリートを見て回るというツアーにガイドとして参加させていただきました。その模様と感想をちょっとだけご報告。

執筆者:坂本 徹也

ムーディな廊下の評価は人それぞれ

続いては、伊東豊雄さん(伊東豊雄建築設計事務所)の2街区。
こちらはオセロのように連続したヴォイドを設けることで、建物にリズミカルな表情を生み出したのが特徴ですね。廊下沿いのヴォイドから入ってくる光が、彩色された間接照明とあいまって、とてもムーディな空間を演出しています。これも好き嫌いがあると思いますが、私たちが案内された階の廊下はピンクに彩色され、ちょっと怪しげな感じ。参加者の中には「色町みたい」との感想も漏れ聞こえました。

工業っぽい建物にヴォイドがリズミカルな動きを与えた

ピンクの階は建築家の中でも賛否両論

ヴォイドの使い方がユニークだったのはここで、伊東さんはこの空間をプライベートテラスとして位置づけられていました。これは正解。不特定多数の人が住む大都市の集合住宅では、なかなかコミュニティが生まれにくいのが実状。意図的に「ここがコモンスペースですよ」と示されても、日常的に接触のない人同士が集まることはなかなか難しいと思います。それならいっそ、この2街区のようにメゾネット住居に住む人が優先的に使える空間として解放した方が有効のように思います。しかし、洗濯物の多かったのには、少々ゲンナリしましたねー。

洗濯物が目立ったプライベートテラス(ヴォイド)

コミュニケーションの場とはかけ離れた印象

時間の関係で、隈研吾さん(隈研吾建築都市設計事務所)の3街区は外から見るだけにとどまりました。

写真で見るかぎり、インナーバルコニーやバルコニーと廊下を繋ぐスルースペースの開放感、モザイク状に配置され屋上緑化が施されたルーフテラスの存在感はなかなか魅力的に思えましたが、コミュニケーション・アトリウムと名付けられた2つの棟の中央部を貫く空間は、あまりにも無機質。

アルミニウムとスチールとガラスの建物

未来社会のような無機質さ
鉄の壁に挟まれたアトリウム

いくつものスチール製の渡り廊下が、2つの棟を繋ぐさまはかなり超近代的で映像的でもあるのですが、張り巡らされた安全対策用のネットや、縦方向にのみ連続して続くスチール材の冷たさが、およそ人間同士のコミュニケーションの場とはかけ離れた印象を生んでしまっています。なんというか…未来の刑務所にいるような…印象。オフィス空間ならともかく、ここに住みたいかと問われれば答えに窮してしまいます。
もうすこし、どこかに要素として人間的な“くずれ”(不規則で有機的な感じ)とか“体温”が欲しくなるのは、私だけでしょうか? これはこの東雲キャナルコート全体にいえることのようにも思います。

集会場にも人の気配がない、人はどこ…?

日本の先端建築の粋を集めた表参道

さて、東雲をあとにして向かったのは表参道です。

青木淳さんのルイ・ヴィトンビル 表参道は、2月にオープンしたばかりの安藤忠雄さんの表参道ヒルズをはじめ、半透明な壁がなまめかしい瀬島和世+西沢立衛さん(SANAA)のディオールビル(03年)、30メートルのクリスタルコーンが際だつ黒川紀章さんの日本看護協会ビル(04年)、世界のヴィトンが選んだ青木淳さんのルイ・ヴィトンビル(02年)、ケヤキの形をそのまま写し取った外壁が特徴の伊東豊雄さんのトッズビル(04年)、そしてかつて私自身がつとめていたこともある丹下健三さんのハナエモリ・ビル(78年)、古典主義デザインをまとったポストモダンを体現したリカルド・ボフィルの青山パラシオ(99年)、唐松の板が鎧戸のように並ぶ隈研吾さんのONE表参道、さらにドイツのワールドカップのメイン競技場を設計したヘルツォーク+ド・ムーロンのプラダビル、光井淳さんのカルチエビルなどが、連続して続く建築ストリートともいえます。

今回は、日が暮れかかってしまったため、見学は表参道ヒルズとその周辺にとどまりましたが、ちょっと歩いただけでも、ここがいま世界でも最先端のストリートであることが実感できますね。

安藤忠雄さんの表参道ヒルズ、メインエントランス

表参道ヒルズには、ディティールが退屈、安藤らしさがないなどいろんな評価がありますが、地域住民の強いこだわりを受け入れる形で安藤さんが出した解答として見れば「これしかない」ようにも思います。
ただ、まだまだものすごい人出で、それはいいのですが、700メートルのスパイラルスロープはまるで蟻の巣のよう。しかも3度の勾配がついているためか、誰もが立ち止まることなく、ただズルズルと歩いていて、ゆっくり建物内を見る余裕がない。「人の流れをつくる」というのがコンセプトのようですが、なんだか歩かされているようで、精神的なプレッシャーを感じてしまいました。

思わず足が前に出てしまう勾配のあるスパイラルスロープ

同潤会アパートを模した同潤館、中はとてもよかった!

もうひとつ、できれば中庭は閉ざさず、外に開いた場所にしてほしかった。雨や風を直接感じて、寒いからあるいは暑いからちょっと立ち寄っていこうとお店に入る。それが本当の“まち”であり、商店街を繁栄させる方法ではないでしょうか。
そんなわけで、この日の建築散歩はここで解散! みなさん、ある種の満足とある種の課題を胸に帰途につかれました。またこういう機会があれば、ぜひご一緒させていただきたく思います。

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