深く蒼く水をたたえた湖の底から、突如、天に舞い上がるように現れる龍の柄。
なんてったって、南宋時代の官人であり、龍描きの名手であった「陳容」の作品「龍図」なのだ。この「龍図」は、文永四年(1267)に朝鮮から請来され、その後足利将軍家に伝来し、以後、織田信長-豊臣秀吉-木村重成-島左近-徳川家康と伝来した由緒ただしきものなのだとか。
ありがたい…。
この龍図ををラベルに起用したのが岩手、あさ開の『純米大辛口 水神』だ。
■龍のように迫力ある辛口
しかしなぜ、水の神「龍」がモチーフなのか。
答えは、清らかな軟水仕込みながら、日本酒度+10という辛口に仕上げ、さらにただ辛いだけではなく米の旨味を十分にあわせ持った、豪快で豪壮な酒であるから。
「龍図」を見つめながら、一口含む。
一見、優しい香りとなめらかな味わいの第一印象だが、喉の奥におとすと、ぐぐっと迫るような旨味と、喉を引き締めるような刺激がたちのぼってき、ちょっと驚く。
なるほど、嵐を巻き起こす龍のイメージを実感する。
日本で唯一「十年連続全国新酒鑑評会金賞」を受賞中の南部杜氏、藤尾正彦氏は「純米ならではのまろやかさ、米のうま味、味わいが残ってこその辛口純米。ただ辛いだけなら焼酎を飲んだ方がいい」と言い切る。
味のある辛口だから、飲み飽きしない。それゆえに、料理をひきたて、邪魔をしない、日本人の感性にあった食中酒になる。
■実は飲食店にしか出回らないらしいぞ
レモンと少しの唐辛子で味を引き締めた生牡蠣には最高の相性だろう。コリッとした食感とネギの風味たっぷりのふぐ皮ポン酢和えにもきっといい。
いやいや、あっさりと塩とコショウでやる豚トロなど脂分を流してくれそうでいくらでもいけそうだし、ピータンと中国薬味をのせた中華風冷奴は、ごま油の香りを引き立ててくれそうだ。
きりがない…。
龍図のラベルは、贈り物向きと思えなくもないが、料理との相性の良さを考えたら、料飲店向きなのかもしれない。うわさによると飲食店にしか出回らないというウワサも。
見かけたら必飲だ。