女性が酒造りに携わるという蔵がずいぶんと増えてきた。
埼玉県飯能市の「天覧山」(五十嵐酒造)もそのひとつ。7年間のOL生活に終止符を打った長女五十嵐香保里さんは、現在、南部杜氏の指導の元、仕込みを手伝い蔵に入っている。
「弟がいますから、女の私は最初遠慮してたんです」
男社会の酒蔵で生まれ育ったゆえ、もともと興味があったのだけど言い出しにくかったと、我がワインバーのカウンターで明るく語ってくれた。赤ワインを片手に、健康的な小麦色の肌で笑う姿は「蔵人」というより、オシャレな都会のキャリアOLといった雰囲気だ。
彼女がおすすめと紹介してくれたのが、純米熟成酒『古天 一九九七』。
ドイツやアルザスのワインボトルのようだし、ヴィンテージ入りだから、ワインバーのカウンターには妙にしっくりきてなんだかおかしいくらい。
淡いゴールドカラー。熟成酒らしい紹興酒のような、またはシェリーのような甘く香ばしい香りが嫌味なくほんのり。味わいは意外にきりっと辛口で、マイナス5度という数字の印象よりもシャープな切れ味。熟成酒というのは個性はあるがモッタリと甘重いという勝手なイメージを持っていたけれど、これだったら、食中酒としてもいけそう・・・。
はて、なにかに似てる・・・。
そう、まるで、イタリア、サルデーニア島のワイン「ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノ」のようではないか。この舌を噛みそうな名前の伝統的白ワインは熟成させればさせるほど、炒ったアーモンドのブーケが華やかに香ってくるのだ。
一度、ティレニア海でとれたマグロのカラスミ(ボッタールガ)をおつまみに飲んだことがあるが、不思議に焼けたようなワインの風味とカラスミの旨味が口の中で爆発するように絡み合う感覚にびっくりし、地中海の島ではこんなに美味しいものを楽しんでいるのかといっぺんでサルデーニア・ファンになってしまった。
カラスミみたいな珍味類は、日本が負けるわけがない。
マグロに対して、あえて本来のと言いたいボラのカラスミやクチコに練りウニ、そうだ、ウルカもいい。いやいや、この『古天』に合わせるなら、もっと身近なイカの沖漬けや一夜干し、たたみいわし、エイヒレだっていい。旨味がのったアジや繊細なシロキスの一夜干しもかなりそそるし、スモークチーズもいけそうだ。
だって、純米熟成酒としては500mlで1200円という金額なんだもの。
日常的に楽しむには十分だ。
若き女性が醸すヴィンテージ入りの純米熟成酒を、ワインバーのカウンターでクリスタルグラスに注ぎ、チーズやカラスミや干物と一緒に相性を楽しむの図。
どうです、ちょっぴり先の日本酒の未来が見えてきたような気がしませんか。
■五十嵐酒造のホームページはこちら 長期熟成酒についての解説も充実。通販もアリ。TEL 0429-73-7703
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