まずは、シンガポーリアンに支持される「チリクラブ」を
さて、ラッフルズホテルを髣髴とさせる、コロニアル様式の建物に一歩足を踏み入れると、大きな水槽のマッドクラブに目を奪われる。大きさ別に分けられたマッドクラブは山積みになり、その様はまさに圧巻。早くこのカニにかぶりつきたい!多くのかたがそう思うのではないだろうか。逸る気持ちを抑えつつ、店内を見渡すと、左手にはバーカウンター。正面に目をやり、しばし歩けば、白と黒の縞のソファーに鮮やかなピンクの壁。この感性は日本人にはないわね…もはやここは異国だわ…そんな想いにさせられた。
席に辿りつき、心がカニ、カニとざわめくなか、メニューを開くと、待っていました!とばかりにツメを高々と上げたマッドクラブたちが顔をのぞかせる。チリクラブ、カリークラブ、ソルトペッパークラブ、ブラックペッパークラブ、ジンジャークラブ、スティームクラブ。味によってその名がつけられているのだが、どれもこれも、いまにも動きだしそうなほどの迫力とシズル感があり、食欲をそそられる。
シンガポーリアンが虜になる「チリクラブ」 |
どれにしようか…最初に訪れたときは、しばし迷ってしまったのだが、シンガポールでマッドクラブといえば、やはり「チリクラブ」。まずはこれを注文することにした。
口にすると、“甘い”。日本人の感覚では、まずそんな言葉がもれるかたも少なくないだろう。しかし、シンガポーリアンはトマトやチリベースで仕上げた、甘くてピリッと辛い味が大好き。
ここのチリクラブは、シンガポールで数店舗を展開する、チリクラブで有名なレストラン「ジャンボ」のレシピで作られているため、基本的には本場テイスト。しかし、過度な甘さを好まない日本人向けに、現地シェフのアレンジのもと、ケチャップと砂糖の量を減らしているという。甘いけれど、食べ進むごとにまた食べたくなる、そんな深い味わいには、確かに地元っこを惹きつける秘薬が秘められているように感じられた。
刺激的なブラックペッパークラブもぜひ!
クラリとするほど刺激的。ソースは揚げパンにつけて。 |
タイのプーパッポンカリーを連想させる、ココナッツミルクカレー風味の「カリークラブ」、ホワイトペッパーにバターがアクセントになった「ソルトペッパークラブ」もおすすめだが、個人的にはまず先に「ブラックペッパークラブ」に食指が動く。
その名からお察しのとおり、この料理にはブラックペッパーがはいっている。が、その量たるや半端ではない。マッドクラブが纏っている黒い衣こそが、ブラックペッパーなのだ。これに唐辛子、ショウガ、にんにくなどが加えられる。
ひとたび口にすれば、3秒後、“きたきたきたー!”とばかりに、スパイシーな味が味蕾を震撼。一瞬くらりとしてしまうほどだが、カニの濃厚な甘みと旨みが複雑に絡むスパイスを緩和し、しばらくすると、またマッドクラブに手がのび、くらいついてしまう…。後をひく料理である。