幻の食材「脱皮伊勢海老(ソフトシェル伊勢海老)」!
今回のコースは、幻の食材と言われる「脱皮伊勢海老(ソフトシェル伊勢海老)」と、「志摩産のアワビ」を使って献立して頂いたオリジナルコースで11,000円。食材の原価が時価ということもあり、日によってはコース価格は変動すると思いますので一応の目安として考えてください。他にも、肉料理も食べたい! という方は、同じく伊勢志摩名物の松阪牛を追加でリクエストして、伊勢志摩三昧のコース内容にされてみるのも良いでしょう。・「七種類の前菜盛り合わせ」
肉は地元名産である松阪牛。部位はトウガラシ(東京ではトンビ)と呼ばれる、肩から腕にかけての希少部位です。サシは入っていますが、モモ肉のような凝縮感の高い赤身肉で、旨味たっぷり。これはカルパッチョで肉質の良さを生で堪能です。
そして今回、これら素晴らしい前菜の中でも特に感激したのが、アワビと伊勢海老のジュレ! 海の二大高級食材の旨味分子をジュレに閉じこめた贅沢な逸品です。食べ方はいろいろありますが、ジュレを楽しんだ後に、アワビと伊勢海老の身肉を味わうのがいいかも。
・「ソフトシェル伊勢海老のソテー」
この脱皮伊勢海老(ソフトシェル伊勢海老)とは脱皮したての伊勢海老のことで、地元では「やいこ」と呼ばれる幻の食材。「ボンヴィヴァン」では、この脱皮伊勢海老を一年ほど前から料理として提供されていて、マスコミにも紹介され大ブレイク。今では需要(生産)がなかなか追いつかず、予約待ちの状況が続いているとのこと。特に夏場は伊勢海老の禁漁期ということもあり、脱皮伊勢海老を食すのは非常に困難なのですが、今回は一ヶ月待って、ついに食べる機会をいただきました。
伊勢海老の殻は、戦国武将が装備する甲冑鎧のような強く張り詰めたイメージがありましたが、実際に触れてみると、本当にフニャフニャとした手触りで、脱皮したてだということがよく分かります。日本ではまだほとんどの人が食されたことのない食材だとは思いますが、もし食べる機会がある時は、是非とも調理前の「生」の状態で触らせてもらうことを推奨します。伊勢海老の殻が柔らかいというのは軽い衝撃ですし、この手触りは本当に面白いですから。
尚、脱皮したての伊勢海老は、さらに強い殻を生み出すために強いエネルギーを「身肉」や「殻」に蓄えているとのことですので、普通の伊勢海老よりも旨味度は格上だそうです!
伊勢海老は火入れすると、生の状態とはうって変わって、殻は艶やかで鮮やかな赤色に染まります。まるで美しく咲き誇る赤い花のように食べ手を魅了する色合いは、見ているだけで食欲と美的感覚が刺激されクラクラとしてくるほど。
まずは「殻」部分ですが、殻は一度油でカラッと揚げてあり、添えられた岩戸の塩でいただきます。塩のミネラル分が殻のカルシウム溢れる味わいを引き立てつつ、噛む度に伊勢海老の薫香と旨味成分が口いっぱいに拡がっていきます。しかも、パリパリッとした煎餅のような食感もヤミツキになるぐらい楽しいので、カトラリーで食べるよりも、思い切って手でかじりついて、殻を豪快に食べるとかなりの快感! 伊勢海老の新しい味と出会いましたね。
もちろん、身肉も豊満な旨味と香りに、プリプリと膨らみのある食感は、伊勢志摩産ならではのポテンシャル。瑞々しさ溢れるソテーに、アメリケーヌソースとブールブランソースが淡く優しく絡まり、上品にして繊細な味わいとなっています。
それにしても、殻ごと全部を食べ尽くせる脱皮伊勢海老は、まさに私が求めていた究極の伊勢海老料理。まるで恋焦がれていた理想の人に会った気分です。全体のテイストからは、伊勢の海の持つ「命の味」というか、優しさや力強さみたいなものを、強く感じましたね。眩しく輝く海の女神が舞い降りたような、そんな一皿。
また、この日にグラスで頂いた白ワイン(サン・ヴェラン)とも相性抜群! より一層、料理の美味しさを盛り上げてくれていました。
最後に、この一皿にはたくさんの人達の想いが詰まっている、ということだけは書いておきたいですね。例えば、添えられた塩は「岩戸の塩」といって、手作りで魂を込めて焼き上げられた地元の塩。そして「脱皮伊勢海老」も地元の生産者である加藤さんが夏の禁漁期の今、寝る暇を惜しんで希少な脱皮直後の伊勢海老を用意してくださり、それらの食材を心に残る料理として最高に美味しく調理してくださったシェフ、さらには、私の無理難題な予約を笑顔で受けてくださったマダムや、相性抜群のワインをグラスサーブしてくれたソムリエさんなど、様々な地元の人達の繋がりの上で今回の料理を頂けたのです。多謝。
次ページでは、志摩産のアワビをメイン料理&多彩なデザートを御紹介します