究極の鍋
さて、いよいよ料理についての御紹介といきましょう。以下は熊肉と猪肉の両方が食べられる13,650円の山の辺料理コースからです。・山草茶
和風ブレンドティーといった感じ。様々なアロマが愉しめます。 |
まず供されるのはドクダミなど八種類の山草がブレンドされている山草茶。こういう御茶一つにも、健康に配慮した手の込んだお茶を出してくださるというのは、寒い冬の時期に、震えながら訪問した私達には最高のおもてなしというものです。身体を温めるように、一口飲むと、その瞬間に様々な香りが鼻腔をくすぐり、舌の上では数種類の山草の味わいが拡がります。目の前に広がる山のテロワールを五臓六腑で感じつつ、はるばる比良山荘にやって来たのだという実感が沸いてきました。
・鯉の白子
こういった日本料理も非常にクオリティが高い。 |
食前酒の「だいだい酒」を飲んだ後に出てきたのが、珍しい鯉の白子。これは白子を蒸したものに、あんかけを施した一品で、意外にさっぱりとした白子の風味が、あんと絶妙に調和し、口の中いっぱいのとろとろ感がたまらない逸品。この付近の冬は寒いですから、まずはこういった温かい料理と熱燗で身体を温めるのが最適です。
・鮎のなれ鮨
やはり比良山荘だけあり、鮎料理はどれも格別の味わい。 |
鮎のなれ鮨は、鮒鮨のような独特の匂いがほとんどなく、むしろ乳酸菌が持つ良香が漂い、とても食べやすいです。こういう酒の肴の極ともいえる一品を出されると、酒もどんどん進むというもの。後に出てくる子持ち鮎にもいえることですが、安曇川の鮎は身がしっかりとしていて、大変風味が豊かです。
・お造り(イワナ・鯉・鹿肉)
鹿の鮮やかな赤身(刺身)は官能的な味わいすら感じられました。 |
ここで「イワナ」や「鯉」と共に地元の山で捕れたという「鹿」の刺身が登場。この時期、ほとんどのレストランでは蝦夷鹿を扱っていますが、この界隈の天然鹿を食べられる店は皆無でしょう。しかも、ここでは生肉で出てきますからね。鮮度が高いのはもちろんのこと、生でこその「鹿」本来の滋味が味わえるというもの。蝦夷鹿は牛肉などとは違い焼いて食べると、やや淡泊気味な風味になりがちですが、鹿肉が本来持っているしなやかで端麗な味わいは、生で食べるほうがより味わえると私は思います。
・焼き物
比良山荘の近くを流れる安曇川の子持ち鮎。鮎好きなら一度は食べておきたい食材です。 |
ここで、安曇川の天然子持ち鮎が登場です。まさかこの時期に、これだけ身の張った子持ち鮎が食べられるとは思っていなかっただけに、子持ち鮎好きの私としては感激も倍増です。味噌漬けにして焼くことで、子持ち鮎に味噌の香ばしさが付き、この香りを嗅いだだけで思わずかぶりついてしまうほど。やはり子持ち鮎は塩焼きもいいですが、味噌漬け(焼き)のほうがベストな食べ方ですね。
・熊鍋
内側の肉が熊肉で、外側が猪肉。それぞれが一輪の薔薇のように美しく盛り付けてあります。 |
そしていよいよ「熊肉」のご登場です。この店の熊肉は、猟師さんに解禁前から出没しそうなところを内偵しておいてもらい、解禁日の11/15から一ヶ月半の間に仕留めてもらうそう。今年の訪問時点で、手に入ったのは80kgの月の輪熊一匹のみ。猪なら30~40匹手に入るそうですから、その貴重さが解ろうというものです。
出された部位は柔らかくて一番旨味のあるロース(背中から腰にかけての中央部分)。これを薄味のすき焼き仕立ての出汁で、しゃぶしゃぶのように、さっと火を通してすぐ食べる。冬眠入りする直前の栄養を蓄えた状態ですから、脂もたっぷりと乗っており、赤味よりもその外側の脂のほうがずっと分厚くて旨い。また、驚くことに臭みがまったくなく、猪肉のようにアクも出ないのが特徴。生では半透明で真っ白な脂肪ですが、軽く火を通すとチリチリ縮まって無垢なニュアンスになり、弾力あるゼラチンのような舌触りが、舌の上でプリプリぷるるんととろけます。
これほどの熊肉は、関西だとこの店以外ではまず口にできないかもしれません。というのも、私は日本各地で何度か熊肉を食べてきましたが、お世辞抜きに美味しいと感激したのは、ここで食べたのが初めてのことだったのです。「熊の手」とはまた違う、ロースの旨味の凝縮したリッチな脂身は本当にたまりません。
なお、熊の部位で一番値が張るのは「胆のう」だということをご存じでしょうか。漢方としての商品価値がものすごく高く、猟師さんも胆のうだけは避けて、仕留めなければならないほどです。
次ページでは、至高の「猪鍋」を御紹介します