その言葉にハッとした。
食器洗い機……
そうなのだ。彼の実家には、食器洗い機があるのだ。欧米でホームステイをしたことがある方なら経験があると思うが、ディッシュ・ウォッシャー(こちらのはまたデカくて容量が多い)を使う際は、なるべく食器類をいっぱいにして起動させたほうが経済的なので、使ってはディッシュ・ウォッシャーに入れ、また使っては入れていく。そうして、1日か2日に1回起動させて洗うのだ。彼はそんなキッチン環境で、ずーっと育ってきた。
一方、私は普通の日本の家庭で育ったから、もちろんディッシュ・ウォッシャーなんぞはない。使った食器は手で洗う、この方法しかなかった。
さらに一人暮しをすると、その方法も少々変わってくる。私は長いこと、仕事を2つ持っていたので、めちゃくちゃ忙しい生活をしていて、ちょっと油断するとすぐ流しに食器がたまってしまった。だから、まず、なるべく洗い物を出さないようにした。マグカップなどを使いたい時、洗った食器類がまだ洗い物カゴ(という名前だったっかな?)に伏せてあったら(自然乾燥のほうが好きなので)、そこから使う。少し前に使ったカップが置いてあったら、さっと洗ってまた使う。
おかずを盛りつけるお皿の数も、なるべく少なめにするよう心がけていた。
そんな一人暮しを、私は“達人”になるくらいまで続けていたが、彼の一人暮し歴はそれほど長くはなかった。日本とスイスのキッチン環境の違いに加え、個人の経験差がさらにプラスされたわけだ。なるほどなあ、と思った。
年末年始にスイスに行った時、これまたそっと観察していたのだが、やはり出しては使い…だった。これは彼だけでなく、家族みんながそうだったのだが、早くディッシュ・ウォッシャーをいっぱいにして洗わないと、汚れが(ウォッシャーに入れる前にさっと流しているものの)乾いてこびりつき、落ちにくくなってしまうため1日に1回は起動させたほうがいいのだ。だからどんどん使っては入れていく。この習慣が抜けなかったんだなぁと分かった。
彼には、そういった私の発見(?)を説明し、うちにはディッシュ・ウォッシャーがないんだからと協力を求めた。
で、どうなったかというと、さすがに使うコップの数は減ったものの、相変わらずいつも3個はその辺に出ている。
しかし、あんまりガミガミ言うのもいやなので、もうあまり要求しなくなった。私の仕事が忙しくなると、彼が洗い物を片付けてくれることがあり、そうそう言えなくなったというのが本当の理由に近いかも……。
そういえば、夫がこのように手伝ってくれるのも、キッチン事情の違いの一つと言えるかもしれない。
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