梅雨寒に、粋な一杯の種物
鮎漁が、解禁された。串を打って、川面にはぜる若鮎のぴちぴちとした姿を、焼物として躍らせるのが初物食いの王道であろう。でも、塩焼きは、それ自身旨すぎて、そばとの相性はいまひとつである。鮎が勝ち、蕎麦が負ける。
実は、蕎麦によく合う鮎の調理法がある。それは、風干しである。大仰にレシピなどというには烏滸がましい手続なので、こしらえ方をあっさりと書き留めておく。親切なお知り合いが、大漁のお裾分けとかで、若鮎の獲れたてをどっさり持ってきてくれたときなど、本稿をちょいと思い起こしていただければ幸甚である。
さて、鮎は、天然に限るが、獲れたてを背開きにして、鰓と内臓を立て塩(3%食塩水)の中でよく掃除する。針魚(サヨリ)とか鮎とか、美人なお魚の腹の中は、どうしてこんなに真っ黒なんだろうと、ちょいと不思議になるが、とまれ、この黒いのや、血や、内臓などを丁寧にお掃除してしまうのが第一のポイント。
次に、好みに応じて5分~1時間ほど立て塩に漬けておいて、、、
あとはこれを干すだけ、である。
皮が薄いので、照りつける海岸のような場所では、ちょいと過激すぎる。盆ざるに、背開きとした鮎を、皮目を下にひっくり返しておいて、そよかぜが送られててくる谷間(たにあい)の日蔭の岩の上みたいな環境で5-6時間(私は、築地の事務所の運転していないエアコン室外機の上にセット)。そのあとひっくり返して皮目を適度にパリッとさせるために、日なたに15分~1時間位かな。
このとき、風は、最強の調理人となる。
食べ方は、とてもシンプル
そばとしての提供:
□かけそばを拵えて、別皿に風干し鮎をのせる
□かけそばを拵えて、その丼に風干し鮎をのせる
□もりそばを拵えて、別皿に風干し鮎をのせる
鮎は、頭から骨ごとむしゃむしゃかぶりついて欲しい。
調味料など要らぬ。 川の苔の風味と、下ごしらえの立て塩の旨味が、
風で魚体にまんべんなく行き渡る。この滋味を、心の底から、楽しみつくす。
そうでなければ、勿体ない。
そして、実は、この鮎、もうひとつの窮極の提供方法がある。それは…
□純米酒のアテとして風干しの鮎を提供。
一~二合愉しんだあと、蕎麦を、手繰る。
私は、本日、最後の手口で至福に酔った。