銀座に、自家製粉のおしゃれ系ソバ屋
そのソバ屋は、銀座と八重洲を隔てる高速道路の高架下にて、きりりとした面格子をもつ大正浪漫風のシツライである。例えば(た・と・え・ば、ですよ)、竹久夢二と岡本かのこがここで逢い引きしていても、全く違和感がない((笑))。まるで、映画「ツィゴイネルワイゼン」のセットのようなたたずまいなのだ。

でも、このソバ屋、入り口がさっぱりわからないのである。そんな謎めいたアプローチも、もしかしたら計算ずくの「魅力」なのかもしれない。

そういえば、2002年にブッシュ大統領訪日のとき、小泉首相が「接待」に使ったお店が、権八の西麻布店だった。海外の人には思い切り解りやすい「和風」のスペース。そう、まさしくセットなのである。
■そんなわけで、この空間のことを、あるヒトが、ニューヨークのデザイナーが解釈した、「古き良き日本のモダニズム時代」と言った。むべなるかな。
あっけらかんと何もないテーブルがある。まずは一杯、煌めく芋焼酎のお湯割りを前にして、今日を生きられたことに感謝して自分に一献…。そんな呑み方も似合う。

独りで来て、良い。二人で来て、良い。数名で連れ立って来ても、良い。この新しい店は、ソバ屋との新しいつきあい方を提案しているかのようだ。この気さくさ、なんだか、小気味いいじゃないですか。
■薄墨色の闇が、隣席とのほどよい結界となって…
抑制されたライティングが、多忙だった昼間の疲れを癒してくれるかのようだ。大切な人とここに来ても、親密な会話が穏やかな闇のバリヤーに包まれて、とびきりの一時を演出してくれることだろう。華美ではないが、心地よい。八重洲と銀座という都会の一隅に似合う空間に仕上がっている。

所望したアルコールをちびりちびりと愉しみながら、旨い蕎麦に想いを馳せる。なんという贅沢な時間の流れだろう。
■バーカウンターからは、そば打ちの姿が見え隠れする
垂涎の芋焼酎がずらりとならんだバーカウンターは、ぴかぴかに磨き上げられて天井の電球を映えたたせている。そして、心憎くも、その視線の先に、蕎麦を手打ちする姿が見え隠れするという演出なのだ。画像の左手にある格子の向こうで、若い職人さんがきびきびとした動作で蕎麦を打つのを眺めているのも、気持ちのいいことである。
■早くソバが食いたい。はやる気持ちを抑えて、茶豆でもう一杯
軽い酩酊が、もう一杯のおかわりを誘う。いいじゃないか。頑張った自分へのご褒美だから。
アテは旬の茶豆がよさそう。素材の甘さを噛みしめる至福がある。
■しめは、とろろせいろそば、1,050円也
最後に届いたのは、きりっとした、様子のいい蕎麦だった。甘皮まで碾きこまれて、少し黒めの、それでいて十分に細い均一なそば。この店には、かなりの打ち手がいることを無言で物語っている。

たぶん酔客を意識してのことだろう、おつゆは少々甘め。この位のチューニングのほうが、お客様のうけはいいと思う。お店によって、お客様によって、様々な汁があってもいい。

とろろせいろそばは、もりそばにやまかけの小鉢が別についてきたという感じの提供だ。酒好きな蕎麦好きなら、この一品で蕎麦前(お酒)とお蕎麦を堪能できるだろう。

さて、帰りがけに20代中庸と思しき若い職人さんと少しお話することができた。蕎麦打ち人は二名が交代で仕事をしているという。特別商品である生粉打ちを除けば、粉の状態に応じて外一(そば粉10に対して1の割粉を合わせる配合か、九一((そば粉9に対して1の割粉を合わせる配合)で打っているという。で、毎日打つ量にびっくりした。お店の中の電動石臼で碾いた粉を、毎日毎日1俵(約45kg)消費するというのだ。

この画像の量のもりつけなら、ざっと450-500人前。ときにはその倍も打つことがあるという。すごい。

店内は暗すぎて、画像ソフトで精一杯調整してもご覧の通りだが、ぜひ一度足を運んで上手な蕎麦を鑑賞して欲しい。それだけでも価値あるソバ屋なのである。
【お品書きの一例】
田舎せいろそば  ¥800
十割そば  ¥1,000
鴨汁そば  ¥900
板そば  ¥1,200
とろろせいろそば  ¥1,200
天ぷらせいろそば  ¥1,450
鴨せいろそば  ¥1,350

【権八(ごんぱち)】
住所:東京都中央区銀座1-2-3 電話:03-5524-3626 交通:有楽町線「銀座1丁目駅」、銀座線「京橋駅」より徒歩約3分 営業時間: 午前11:30~午後2:00 午後5:00~翌午前2:00 (LO.Food 1:00, LO.Drink 1:30) 服装:ドレスコードあり(男性短い半ズボン禁止等)
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