そば/東京のそば屋

「ただいま」といいながら入りたくなる蕎麦屋 東京大森・布恒更科訪問記

蕎麦屋で呑むということが、日常生活の動線のなかにきっちりと組み込まれていて、わざわざ出かけていくのではなく、いつもの通り道に良い蕎麦屋があるからちょいと寄るというスタイルがいい。

執筆者:井上 明


私は、蕎麦屋で呑むのが、好きだ。

そして、理想を言わせてもらえるなら、蕎麦屋で呑むということが、日常生活の動線のなかにきっちりと組み込まれていて、わざわざ出かけていくのではなく、いつもの通り道に良い蕎麦屋があるからちょいと寄るというスタイルがいい。

というわけで、まだなじみの蕎麦屋を発見できていない人は、通勤経路の左右を見渡して、粋な蕎麦屋がないかどうか目を凝らしてみてはどうだろう。いい蕎麦屋は、たいてい一本露路を入ったところに隠れているものなのだ

さて、今回訪れたのは、京浜急行電鉄の大森海岸駅そばの「布恒更科」だ。こういう店が、日常の行動範囲にすっぽりと収まっている人は、本当にうらやましい。

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なぜか哀愁の絵柄である。大森海岸は、ほとんどの電車が黙殺し、普通電車だけが時折停まるという、「忘れかけられたような」駅。布恒更科へのアプローチは、実はJRの大森駅東口からいすゞの関連施設の間をを縫うように歩く道筋もあるのだが、なんだか今日は築地から都営地下鉄と京浜急行を乗り継いで、ここからアプローチをしてみたかった。

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ゆっくりとそぞろ歩いて、5分で布恒更科に到着。まだ6時台というのに、あたりは墨を流したような漆黒に包まれ、とても暗い。デジカメを最大の感度として、なんとか全貌を収めたのがこの画像だ。


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入っていくとき、「ごめんください」というよりも、思わず「ただいま」と言ってしまいそうな安らぎが、店全体のオーラとして漂っている。嬉しい。こういう店なら安心して酒が楽しめそうだ。

店内は暗すぎてデジカメに収められなかったが、とにかく徹底的に掃除してある。決して新しい建物ではないが、細部にいたるまで磨き上げられているという風情。



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さて、まずはお目当ての酒だ。 純米酒がリストされていて、お好み次第だ。千葉の岩の井などという山廃の珍しい酒もある。

今日はちょっと重いめのアテを頼むつもりなので、竹鶴秘傳(600円)を注文してみた。タケツルは、NIKKAウヰスキーの本家筋の酒屋である。



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ところで、純米酒は燗にかぎる。一時期の日本酒がわざとらしい香りに隠蔽され(つまり燗にすると旨くないので)、どこへ行っても冷やばかりすすめられるものだから、その時分に真面目につくりこんでいる焼酎に目覚めてしまった私である。

しかしながらここにきて、純米の酒の復権は著しく、酒好きにとってはご同慶の至りとなった。いい酒は、ほんのちょっぴり燗をつけると、冷やとはまた違った旨さをみせてくれる。

布恒更科で提供された燗は、きっちりと人肌のぬくもりだった。

画像はお通し(松前漬け)と注文したそば味噌。そば味噌は150円と嬉しいおねだん。これだけで3合くらいは呑めそうだ。


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さて、こちらが本日のお目当てその一、「ごぼう天の抜き」700円。抜きとは、温かいそば(種物)からそばを「抜いた」状態のメニューなのである。布恒更科の場合、普通はフルサイズの丼で出てくるところを、このように小振りな塗り物にて提供してくれる。かけ汁(甘汁)に切り三つ葉を泳がせて、吸い口の柚子があしらわれている。汁と、コロモと、牛蒡の土の香と、独特な食感がたまらなく旨い。

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もう一つのお目当ては、この煮穴子。そもそも大森海岸は「江戸前」の海であるわけで、穴子はこの店にふさわしい。軟らかく煮た穴子の上にツメを流して、その上から煎ったそばの実(丸抜き)を振りかけてある。んーーーー、美味。

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そばは「生粉打ち」1,000円を注文した。店内が暗いので、内蔵ストロボの助けを借りなければならなかったので、色が飛んでいる。粉は茨城産、常陸秋ソバ。しっかりとした喉越しの、風味豊かなおそばだ。

注目すべきはこのボリューム!やっぱり、地元の蕎麦屋さんはこうでなくっちゃネ。

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最後になってしまったが、布恒更科で各テーブルに置いてあるこの壺。何でしょう?実はこれ、揚げ玉がサービスされる壺なのだ。さすが「ただいま」と言いたくなる蕎麦屋、面目躍如である。

《布恒更科》
■所在地 品川区南大井3-18-8
■電 話 03-3761-7373
■営業日 月~土曜、(祝日は昼のみ)
11:30~15:00
17:00~20:00
■休業日 日曜
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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