涼しい気候が生むワイン
ローラソン氏によると、オンタリオ州には9,000ヘクタールのブドウ畑とそのブドウを使う101ワイナリーがあり、アイスワインは年産平均1,300ケースで世界最大の産地となっている。北緯42~44度で夏の暑さと冬の寒さは厳しいが、湖の水によって極端な変化が和らぎ、その結果アルコール度数が高まり過ぎず、純粋な果実味と爽やかな酸味となる。
五大湖はかつて内海であったことから、海の生物が堆積して出来た石灰質の土壌はシャルドネに適しており、リースリングやピノ・ノワールそしてガメイやヴィダルといった品種も多い。
試飲ワインは下記の順番で供された。
(生産年度、ワイン名/品種名、括弧内に生産者名、略号で生産地、の順で表記)
1. 2006 Charles Baker Riesling (Stratus Vineyards) NP
2. 2006 Lighthall Vineyard Chardonnay (Huff Estate) PEC
3. 2004 Chardonnay (Tawse Winery) NP
4. 2005 St. Cindy Pinot Noir (Rosehall Run) PEC
5. 2004 Twenty Mile Bench Pinot Noir (Le Clos Jordanne) NP
6. 2006 Cabernet Franc (Pelee Island Winery) PI
7. 2004 Reserve Cabernet Sauvignon (Creekside Winery) NP
8. 2006 Icewine Cabernet Franc (Inniskillin) NP
* NP=Niagara Paninsula, PEC=Prince Edward County, PI=Pelee Island
味わって特に興味を惹かれたのは3・5・7のワインで、どれもナイアガラのものだった。
3のトーソン社がナイアガラで造るシャルドネは味わいの中に少し複雑味があり、爽やかな中にコクやとろみが感じられ、充分な余韻にかけてしっかりと酸味が際立つ。
家族経営の小規模生産者で、畑は可能な限り合成物質を使わずバイオダイナミクスの手法も用い、グリーンハーヴェスト(生育期に青いブドウの房を減らして凝縮感を高める)などで収量を抑えている。地熱を利用したワイナリーでは、この年から6層の高低差を利用してポンプを使わずに果汁やワインを静かに移動している。かなり完璧を期した造り方だ。
これは、と感心したのが5のレ・クロ・ジョルダンヌ。「おそらく日本未公開のワイン。有機農法的な方法でブドウを造っています」というが、くっきりとしたオークの香りに負けないエレガントさとバランスが感じられる香り。味わいはスムーズで、ちょうどいい酸味が感じられる。瑞々しい果実味の、充分長い余韻もいい。
このワインは現地でも人気で、リリースして1ヶ月ほどで完売するという。昨年世界最大のワイン会社コンステレーションに買収されたカナダ最大のワイン会社ヴィンコー(Vincor)と、ブルゴーニュ大手のボワセ(Boisset)のジョイントベンチャーである。
8のナイアガラ最古参ワイナリーであるイニスキリンは、一般に出回っているヴィダル種やリースリング種を使った白のアイスワインと比べて、ぐっと個性的である。
「ストロベリージャム、チェリーや紅茶の風味」の中にカベルネ・フランらしい土の香りがある。甘味充分で、少しレーズンのような後味。これもヴィンコー所有のワイナリーだが、アイスワインも奥が深いようだ。
試飲したワイン全般に感じたことだが、気取らず穏やかで爽やかな味わいなのがカナダ人の国民性を思わせる。だがトップレベルの生産者はすでに、風味の重層性や洗練性を高めるレベルまで到達していると感じた。オンタリオのワイン、要チェックである。
ローラソン氏、こんな秘密があった!>>