パン/パン屋さん取材レポート(西日本)

フール・ドゥ・アッシュ(大阪・本町)(2ページ目)

幼少時の記憶や、修業時代の経験、お客さんから感受するイメージからパンが生まれる。それは日々更新され、訪れる人を喜ばせる。アーティスティックなパン職人、フール・ドゥ・アッシュの天野さんを取材しました。

清水 美穂子

執筆者:清水 美穂子

パンガイド

人気のセーグル・バラエティ

フール・ドゥ・アッシュはセーグル(ライ麦)系のパンに人気があり、バリエーションもいろいろです。最初にイメージがある、と言う天野さんですが、セーグルにはどんなイメージが?

「祖母のイメージなんです。おばあちゃん子だったんで、子供の頃はいつもいたんですけど、その匂いの記憶と重なるんです。例えば以前あった”セーグルマロン”は、祖母が小学校の運動会につくってきてくれた栗ご飯のイメージです。郷愁っていうのかな、もう戻らないあの時間……っていう想いでつくりましたね、あのパンは」

セーグル キャラメル・ノワ・エ・レザンは珍しいキャラメル味のセーグル。

ちなみに、天野さんの好きなパンはパン・ド・セーグル・ノワ(クルミ入りのライ麦パン)。イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ時代、このパンが大好きだった天野さん。「それが焼けるようになった日、自分にとって雲の上の存在である師匠の足元が見えたような気がした。自分でも頑張ればできるんだ、と勇気をもらったパンなんです」。

セーグルには、ドライフルーツやナッツ、キャラメルが練りこまれたものまであります。それもたっぷりと、量が半端ではありません。「クルミを入れるんでもいつも同じじゃなくて、もっと別のアプローチのしかたがあってもいいんじゃないかな、と思うんですよね。 甘いんだとしたら、砂糖を減らすのではなく、別のものをプラスする。これ、パンに入れるものが増えていく原因になっちゃうんですけど。多重性を追究しています」 多重性。それは、かつて彼が描いていた油絵と似ている要素があるかもしれません。

ライ麦パンの吸水率は約110%。おにぎりみたいに握らないと形にならないという。セーグルフリュイセック (380円)

「味は相対的なもの。おいしい、というのはその人が経験してできた価値観によって決まるもの。だから万人受けを狙ってつくるより、自分の中で消化したものを出したいと思っています」という天野さん。

最初にイメージありき、のパンは日常の些細なできごとや、お客さんから感受したものから生まれるようです。フルーツやチーズ、ナッツはもとより、菓子職人でもある天野さんならではの砂糖や洋酒使いもふんだんにあって、それらが組み合わさる様子は、芸術的ともいえます。

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